鉄砲笊てっぽうざる)” の例文
旧字:鐵砲笊
又、此の屑屋がきょうがつた男で、鉄砲笊てっぽうざるかついだまゝ、落ちたところ俯向うつむいて、篦鷺へらさぎのやうに、竹のはし其処等そこらつっつきながら、胡乱々々うろうろする。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
鉄砲笊てっぽうざるをかつがずに、のままの姿で、今日も万吉が例の焼け跡へ来てみると、そこに果たして、彼がこの間うちから心待ちにしていた消息があった。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
乾児の岡っ引二人のうち弟分の葬式彦兵衛は芝の方を廻るとだけ言い置いて、いつものとおり鉄砲笊てっぽうざるを肩にして夜明けごろから道楽の紙屑拾いに出かけて行った。
路地の外に頑張って、しばらく様子を見ていると、鉄砲笊てっぽうざるを担いだ屑屋くずやが一人、何にも言わずにノソノソと入って行きます。多分、この路地の中に住む店子たなこの一人でしょう。
れると、まだ天狗てんぐのいきの、ほとぼりが消えなかつたと見えて、鉄砲笊てっぽうざるへ、腰からすつぽりとおさまつたのである。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
いつぞや、墨屋敷の窓の下で、お綱と約束したことがあるので、彼は、例の鉄砲笊てっぽうざるを肩にかけて、その日妻恋坂のお綱の家を、ソッとのぞいてきたのである。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鉄砲笊てっぽうざるを担いで江戸中を廻り、古着、ガラクタ、紙屑までも買って歩いて、それを問屋に持込み、わずかばかりの口銭を取って、その日その日を細々と送っている屑屋ですから
加山耀蔵ようぞう鉄砲笊てっぽうざるをかついで紙屑屋かみくずやに化け、波越八弥はどこから見つけて来たかと思うほどひどいボロを着こんで、頭から酒菰さかごもをかぶり、うまうまと非人ひにんに変装した。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
屑屋くずやにな大形おおがた鉄砲笊てっぽうざるに、あまつさへ竹のひろひばしをスクと立てたまゝなのであつた。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「ええ、それさえ知れれば、こんな寒空に鉄砲笊てっぽうざるかついで、毎日歩き廻ることもねえんです。で御新造様、一体お千絵様は、どこへ立ち退いてしまったものでしょうね?」
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あてなどはございません。河岸かしへ行って軽子かるこをしようと、鉄砲笊てっぽうざるをかついで紙屑買いをやろうと、無二無三にやって行けば、働いているうちに思案はひとりでにつくと思っているだけで」
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鉄砲笊てっぽうざるを持たない屑屋が、人ごみをくぐって、何処かへ姿を消したかと思いますと、それから間もない後、千束の稲吉を中心にして、七、八名の黒衣くろごの男が、石和屋いさわやの二階の灯がすいて見える
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)