遷延せんえん)” の例文
しかし柳営りゅうえいがわでは、仮病とみて、あくまで即日発向をい、遷延せんえんをゆるさぬのみか、こんどにかぎっては、いたく強硬なのである。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
のち敷衍ふえんして『国民之友』に掲出する十回。さらに集めて一冊となさんと欲す、遷延せんえん果さず。このごろ江湖の督責とくせき急なるを以て、咄嗟とっさの間、遂にこれをす。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
「この機をのがしてはならない」と安芸は続けた、「酒井侯に対立する勢力があって、そのため評定が中途半端にされたり、ごまかして遷延せんえんされたりしてはならない、 ...
あの縁談には義兄の銀行の上役の人なども仲に這入っていることを知って、義兄を一層難儀な羽目におとしいれるように、わざと返事を遷延せんえんさせた傾きもないではなかった。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
時介から充分其の目的の達する様にして遣るとの約束を得て居ましたけれど好機会を得ぬ為に遷延せんえんして居たのです、所が監獄の医を勤めて居る彼の大場連斎が権田の意に加担し
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
ふもとの四人を明日の夕刻来てくれと招き置きたる者にて、その用事は、頃日けいじつ余が企てたる興津おきつへ転居の事今まで遷延せんえんして決せざりしを、諸氏と相談の上最後の決定をなさんとするなり。
明治卅三年十月十五日記事 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
ところが彼等は先の相談を急ぐあまり、遂に大切な推理を落とした。それがためこの重大事件は、もっと早く解決すべくして、不幸にも遷延せんえんするという結果に陥ったのは是非もない。
地球盗難 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それは口実なしに先方が返事を遷延せんえんしてしまった。
(新字新仮名) / 岡本かの子(著)
立てて、この程度に、堪忍いたしておく。……お受けあるや否や、余りに、遷延せんえんしても困る。さっそく岡崎へお使いを立てられたい
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼がいたずらに遷延せんえん機会をつが如きこと無き、彼が冒険大胆にして不敵なる、これみな一に松陰の人物を夕陽に照して、さらにその丈余の影子を加えたるものというべし。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
加うるにその痩身そうしんは生来決して頑健ではない。かつまた、蜀の内部にも、これ以上、勝敗の遷延せんえんを無限の対峙たいじにまかせておけない事情もある。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかるに一方においては、かくの如く国論沸騰、廟議紛擾ふんじょうその統一を失うたるに際して、他方においては、宿約たる安政五年三月五日調印の期日を失し、遂に遷延せんえん五月二日に至り
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
そして何かと事件の処理は遷延せんえんさせ、その間に、宋江にとって有利なしょを見つけようとするのが、知事の腹らしかった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ついに南ノ探題、大仏維貞おさらぎこれさだの東下となり、鎌倉の“断”を仰ぐに至ったわけだが、それも遷延せんえんに遷延、今もって
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「急転直下、事態は険悪を極め、一刻の遷延せんえんもゆるさないところまで来てしまった。都督、卿の思うところは如何に。——忌憚きたんなく腹中を述べてもらいたいが」
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
で、何やかやと判決は遷延せんえんしてゆく。それはいいが自然、北京ほっけい府内では、おもしろからぬ噂も立つ。盧俊儀ろしゅんぎその人への日ごろの人望やら同情なども抑え難い。で、梁中書も考えた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かず、この際は、進むと見せて進まず、戦うと見せて戦わず、遷延せんえんこれ旨として、魏軍の四路の戦況をしばらく観望しているに限る。もし魏の旗色が案外よければ、それはもう問題はない。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そもそも。このたびのご出陣は遷延せんえんまた遷延をかさね、ちと遅すぎました。ゆえに呉は国防に全力をし、その期間に濡須じゅしゅの堤まで築いてしまった程です。かず、一応引揚げて、ふたたびご出征を
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)