遠目とおめ)” の例文
それから——遠目とおめにも愛くるしい顔に疑う余地のない頬笑ほほえみを浮かべた? が、それはのない一二秒の間の出来ごとである。
少年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
思いきや、時にあなたなる西側にしがわ鯨幕くじらまくをしぼって、すらりと姿すがたをあらわした壮漢そうかんの手には、遠目とおめにもチカッと光る真槍しんそうが持たれていた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
魔女は、赤い目をしていて、遠目とおめのきかないものなのですが、そのかわり、けもののように鼻ききで、人間がってきたのを、すぐとかぎつけます。
遠目とおめの利く半七は欞子にすがってしばらく見おろしているうちに、なにを見付けたか急に与七を見かえって訊いた。
半七捕物帳:31 張子の虎 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
木のしょうはまるで違うが、花の趣が遠目とおめにはどこか百日紅さるすべりに似たところがある。その後も志下にはたびたびったが、駐在所ちゅうざいしょわきなどに栽植せられているのを見るようになって来た。
ひどくいそいでいるので、まるで足が地についていないようです。こんども、リスのかごを目がけて、いちもくさんにかけていきます。遠目とおめのきくおばあさんには、それがはっきりと見えました。
木綿の糸が細くのりが弱くなって、ぴったりと身につくような近頃の世になると、人の姿の美しさ見にくさはすぐ現われて、遠目とおめにも誰ということを知るのであるが、ゆうべを心細がるような村の人たちは
かはたれ時 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
それは嫌悪けんおを感じさせると同時に好奇心を感じさせるのも事実だった。菰の下からは遠目とおめにも両足のくつだけ見えるらしかった。
寒さ (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
雑司ヶ谷から帰って来た白井屋の女房は、遠目とおめに半七をうかがって一途いちずにそう信じた。亭主も同じ疑いをいだいていたので、夫婦は相談の上で戸塚の市蔵に密告した。
半七捕物帳:64 廻り灯籠 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
私などの住む附近の田舎いなかでは、この頃は祭礼のあかく染抜いた半てんを着ることが、野らで働く青年の一つの好みになっている。浜方はまかたではまた遠目とおめには紳士とも見えるような、洋服人が網をいている。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
その顔は大きい海水帽のうちに遠目とおめにもきと笑っていた。
海のほとり (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)