通越とおりこ)” の例文
僕は君、悲しいなんていうところを通越とおりこして、呆気あっけに取られてしまいました——まるで暴風にでも、自分の子供をさらって持って行かれたような——
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
トントン……と二階梯子はしごを響かせながら、酒膳しゅぜんを運んで来た女は、まアその色の黒きこと狸の如く、すす洋燈らんぷあかりに大きな眼を光らせて、むしろ滑稽は怖味こわみ凄味すごみ通越とおりこしている。
菜の花物語 (新字新仮名) / 児玉花外(著)
部屋の前を通越とおりこして台所へ行くか、それとも万一ひょっと障子がくかと、成行なりゆきを待つの一ぷんに心の臓を縮めていると、驚破すわ、障子がガタガタと……きかけて、グッとつかえたのを其儘にして
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
どこまでも人をしのいだ仕打しうちな薬売は流眄しりめにかけてわざとらしゅうわし通越とおりこして、すたすた前へ出て、ぬっと小山のような路の突先とっさきへ蝙蝠傘を差して立ったが、そのまま向うへ下りて見えなくなる。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「旦那、通越とおりこしました。」
半島一奇抄 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)