追憶ついおく)” の例文
次に、この本に収めた各篇について、簡単な解説を試み、一つは作者自身の楽しき追憶ついおくのよすがにし、また一つは大方の御参考にしたいと思う。
『地球盗難』の作者の言葉 (新字新仮名) / 海野十三(著)
文壇ぶんだん論陣ろんぢん今やけい亂雜らんざつ小にながれて、あくまでも所信しよしん邁進まいしんするどう々たる論客きやくなきをおもふ時、泡鳴ほうめいさんのさうした追憶ついおくわたしにはふかい懷しさである。
文壇球突物語 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
こうした追憶ついおくをするのさえ、苦しかったぼくを、今では冷静におししずめ、ああした愛情は一体なんであったろうかと、考えてみるようにさせました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
わたしはかれのまっすぐな、かざのない性質が好きだったし、かてて加えて、この久しぶりの面会が、わたしの胸に呼びさましてくれた追憶ついおくのおかげで
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
自分はいなと云う代りに、黙って帽子のひさしを下げた。これからしもに掲げるのはその時その友人が、歩きながら自分に話してくれた、その毛利先生の追憶ついおくである。——
毛利先生 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そうしてそういう昔のさまざまな歓ばしい出会いの追憶ついおくふけっているひまもなく、すでに私から巣立っていったそれらの少女たち、ことにそのうちの一人との気まずい再会を恐れて
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
忍剣にんけん恵林寺えりんじにいたころ、一年ひととせ、その盛時せいじを見たことがあるので追憶ついおくがふかい。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今日こんにちの彼はいくさごっこの中に旅順港りょじゅんこうの激戦を見ないばかりではない、むしろ旅順港の激戦の中にも戦ごっこを見ているばかりである。しかし追憶ついおくは幸いにも少年時代へ彼を呼び返した。
少年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
義経の声も、甘い嗚咽おえつと、うれし涙と、遠い追憶ついおくに、途切れ途切れであった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、そのおもては、無量な追憶ついおくにつつまれていた。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)