訛伝かでん)” の例文
旧字:訛傳
しかしその事件から基次、関東に内通せりとの訛伝かでんありし為既に死は決していたらしい。その心情の颯爽さっそうたる実に日本一の武士と云ってもよい。
大阪夏之陣 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
それは、この街道筋の東西の雲助という雲助が、明日という日に関ヶ原で総寄合を行うということの訛伝かでんでありました。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ことむずかしくいえば、土牢どろう塗籠とろうで、すなわち“め”——壁ばかりな部屋ということの訛伝かでんであろうか。
彼の生死不明のうわさは彼の養っていた畜群が剽盗ひょうとうどものために一匹残らずさらわれてしまったことの訛伝かでんらしい。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
ここにおいて、そのことの全く訛伝かでん、虚構に出でたることを知り、その由を寄書者に答えおけり。
おばけの正体 (新字新仮名) / 井上円了(著)
『増補浮世絵類考』に国直は豊国の門に入るに先立ちて明画みんがを学びまたみずから北斎の画風に親しみ、あらたに一家を成さんとの意ありし事を記せり。これは訛伝かでんにあらざるべし。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
その時グランの僧正が引導を渡したと云うのは訛伝かでんである。それに反して、女房ユリアが夜明かしをして自分で縫った黒の喪服を着て、墓の前に立ったと云うのは事実である。
二葉亭が軍事探偵の嫌疑で二タ月か三月みつきも拘禁されたようにうわさされ、これに関聯して秘密の使命を受けていたかのような想像説まで生じたのは多分この事が訛伝かでんされたのであろう。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
これがこういう場合にお定まりであるようにいろいろに誤解され訛伝かでんされている。
春六題 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
されば現時持てはやさるる「味の素」は蛇を煮出して作るというも嘘でないらしいと言う人あり。琉球で海蛇を食うなどを訛伝かでんしたものか。効用といえば未開半開の世には蛇が裁判役を勤めた。
世人が史学に注目するに至れるはすこぶる喜ぶべきの観あり。然れども思へよ、史学の根底は正確なる事実にあり。而も在来の伝説史籍、謬説世を誤り訛伝かでん真を蔽ひ炯眼の士なほかつ之が弁別にくるしむ。
史論の流行 (新字旧仮名) / 津田左右吉(著)
芸妓げいしゃ二名の死傷は訛伝かでん也)……
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ほとんど、これは訛伝かでんでなく、いやいやながら信長もその事実を認めざるを得ないほど、衆口一致していた。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこへ代官暗殺されその幽霊の来襲をおそるる事甚だしくなりて、今更盛んに目籠を以てこれを禦ぎしより、ついに専ら代官殺しが、日忌の夜笊を出す唯一つの起りのよう、訛伝かでんしたのであろう。
人為的とは、虚言、訛伝かでん等によりてその実を誤るものをいう。偶然的とは、さきに第一節に掲げたる二、三の例のごときものをいう。この二者はともに事実にあらざるをもって、これを虚偽と名づく。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
(讃岐中郡なかごおりへ、変更の儀は、まこと訛伝かでんか)と、官へ急使をやって、問いあわせた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これも後に聞けば、やはり虚説、訛伝かでんであったそうだ。
おばけの正体 (新字新仮名) / 井上円了(著)