角筈つのはず)” の例文
滝の名所はここ王子なるを初めに、角筈つのはず十二社じゅうにそう、目黒の不動などを主とし、遠くは八王子、青梅などにその大なるものをたずね得べし。
残されたる江戸 (新字新仮名) / 柴田流星(著)
向嶋のみならず、新宿、角筈つのはず池上いけがみ小向井こむかいなどにあった梅園も皆とざされ、その中には瓦斯ガスタンクになっていた処もあった。
葛飾土産 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
近き碑を包み遠き雲をかすめつ、そのあおく白き烟の末に渋谷、代々木、角筈つのはずの森は静に眠りて、暮るるを惜む春の日も漸くその樹梢こずえに低く懸れば
父の墓 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
左は角筈つのはずの工場の幾棟、細い煙筒からはもう労働に取りかかった朝の煙がくろく低くなびいている。晴れた空には林を越して電信柱が頭だけ見える。
少女病 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
角筈つのはずに住む水彩画家は、私と前後して信州へ入った人だが、一年ばかりで小諸を引揚げて来た。君は仏蘭西フランスへ再度の渡航を終えて、新たに画室を構えていた。
芽生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
まず、おっかさんを宿へ残して、角筈つのはずを振り出しに朝の泥んこ道を、カフエーからカフエーへ歩いてみる。朝のカフエーの裏口は汚なくて哀しくなってしまう。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
この畠を前にして、門前のこみちを右へけばとおりへ出て、停車場ステエションへは五町に足りない。左は、田舎道で、まず近いのが十二社じゅうにそう、堀ノ内、角筈つのはず、目黒などへくのである。
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この流れは東京近郊に及んでは千駄ヶ谷、代々木、角筈つのはずなどの諸村の間を流れて新宿に入り四谷上水となる。また井頭池いのかしらいけ善福池などより流れ出でて神田上水かんだじょうすいとなるもの。
武蔵野 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
その所思しょしを有志にはかりしに、大いに賛同せられければ、即ち亡夫の命日を以て、角筈つのはず女子工芸学校なるものを起し、またこの校の維持を助くべく、日本女子恒産会にほんじょしこうさんかいを起して、特志家の賛助を乞い
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
内藤新宿の追分おいわけから角筈つのはず、淀橋を経て、堀ノ内の妙法寺を横に見ながら、二人は和田へ差しかかると、路ばたの遅い桜もきのうの雷雨に残りなく散っていた。
半七捕物帳:50 正雪の絵馬 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ゆき子は二度ばかり来た事のある、角筈つのはずの電車通りに出来た、中華蕎麦の小さいバラックの店へ、伊庭を連れて行つた。夜になると、ゆき子は強い酒が飲みたかつた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
角筈つのはずの銀世界のやつをそのまゝ移して持つて来たものもある。しかし大抵実を目的にしてゐるので、花が遅い。三月の中頃にならなければ満開といふわけには行かない。
樹木と空飛ぶ鳥 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
原はこれから家を挙げて引越して来るにしても、角筈つのはず千駄木せんだぎあたりの郊外生活を夢みている。足ることを知るという哲学者のように、原は自然に任せて楽もうと思うのであった。
並木 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
雑司ぞうし鬼子母神きしもじん高田たかた馬場ばば雑木林ぞうきばやし、目黒の不動、角筈つのはず十二社じゅうにそうなぞ、かかる処は空を蔽う若葉の間より夕陽を見るによいと同時に、また晩秋の黄葉こうようを賞するに適している。