みつ)” の例文
何事か頭にひらめいて来たらしい。その眸子ひとみじっと、眼下に突出している岬のあたりをみつめ、右手の指は鉄の柵をせわしく叩きだした。
廃灯台の怪鳥 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
嘉兵衛は茫然と、宙をみつめたまま肩で息をついている——娘のお稲だけは、投出された濡雑巾のように、畳の上へうち伏して泣咽なきむせんでいた。
暗がりの乙松 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
船長はじっと伊藤の眼をみつめた。伊藤青年は力に溢れた微笑を見せている。——如何いかにもさあ行きましょうと云いたそうだ。
流血船西へ行く (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
……そしてそのようすを、朽木大学だけが、眼をうるませてみつめていた、今にも涙の溢れ出そうなまなざしだった。
松風の門 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
彼女は痩せた男に執拗しつこみつめられたり、体の隅々までめるような視線に会ってもべつだん不快な顔をせず
蛮人 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
残る三名、拒む気力なく二三間退く、孫次郎は刀の柄へ手をかけたまま、じっと相手の眼をみつめながら云った。
おもかげ抄 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
純子は手の書物をつと卓子テーブルの上へ置いて、じっと空をみつめていたが、ふいに正三のほうへ向いて云った。
(新字新仮名) / 山本周五郎(著)
……それから母親がはいって来るまでのかなり長い時間、彼は身動きもせずに部屋の一隅をみつめていた。
日本婦道記:小指 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
だからと云いかけて、彼はじっとおかやの眼をみつめた。それは彼女の眼を透して心のなかまでのぞくような烈しい視線だった、そうして相手の眼を覓めながら彼は云い継いだ。
日本婦道記:二十三年 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
玄一郎はその眼をひたとみつめてから、机上にひらいてある書物のほうへ向き直った。
山だち問答 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
頬を染め、熱い太息といきをつきながら、不由の眼は遠のく浅二郎の姿をみつめていた。
入婿十万両 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
正吉の体がぴくっと痙攣ひきつった。波打っていた背中が停まった、——正吉は恐る恐る顔をあげた、そして手燭の光に照された主人の面を、白痴のような眼で暫くみつめていたと思うと、突然
お美津簪 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
正吉は壁へもたれたままうつろな眼でくうみつめていた、——とろんと濁った眼だった、蒼白あおじろい紙のように乾いた皮膚、げっそりとこけた頬、つやを失った髪の毛……お紋は慄然りつぜんとして眼を外向けながら
お美津簪 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
恐怖のために顔はひきゆがみ、ふたつの眼はとび出すかと疑えるほど大きくみひらかれていた、その眼で靱負をひたとみつめながら、おかやは「ああ、ああ」と意味をなさぬ声をあげ、激しく身悶みもだえをした。
日本婦道記:二十三年 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そう思ったとき、道化ピエロの方でも五郎の顔をじっみつめたようだった。
劇団「笑う妖魔」 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
宗方博士は不審な面持おももちで新田をみつめた。
廃灯台の怪鳥 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
暫くみつめていたが
おもかげ抄 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)