見栄坊みえぼう)” の例文
旧字:見榮坊
「かわいそうなマリユスだと! あの男はばかだ、悪党だ、恩知らずの見栄坊みえぼうだ。不人情な、心無しの、傲慢ごうまんな、けしからん男だ!」
それでも、ここのみんなと同じように、ひとりでいい気になって見栄坊みえぼうなもんですから、絵では寸法を引延ばしてかせたのだわ。
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
菊太郎君は見栄坊みえぼうだった。自分だけ光りたい。そのくせ肚の中では僕を恐れている。今でもそうだが、子供の頃はそれが至って露骨だった。
勝ち運負け運 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「そう損をしてまでも義理が尽されるのは偉いね。しかし姉は生れ付いての見栄坊みえぼうなんだから、仕方がない。偉くない方がまだ増しだろう」
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
またごく見栄坊みえぼうで、そのうえ多少の才能もあり、金持ちの娘に眼をつけることもでき、また彼がみずから自慢してたように
その見栄坊みえぼうのモダニティから、(堀木の場合、それ以外の理由は、自分には今もって考えられませんのですが)或る日
人間失格 (新字新仮名) / 太宰治(著)
で、学校に行きたいとしきりにせがんだ。余りに責められるので母は差し当り私を母の私生児として届けようとした。が、見栄坊みえぼうの父はそれを許さなかった。
女性の何人なんぴとも化粧をするのはい、可憐かれんである。美女は美女なりに、醜女しこめは醜女なりに、いかにも女性の心の弱さ、お洒落しゃれさ、見栄坊みえぼうであることを象徴して好い。
女性の不平とよろこび (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
見栄坊みえぼうだから、金が無くても金の有る風をして、紙入を叩いてって了うと、もう汽車賃も残らない。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
意地っ張りで見栄坊みえぼうの私はそれを白状することが出来ないので、相変らず毎日学校を休み、天気の良い日は海の松林で、雨の日は学校の横手のパン屋の二階でねころんでいた。
石の思い (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
坊ンち育ちに出来ているので、多分に、見栄坊みえぼうなところがある。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どうしてこの人達は、こんなさもしい見栄坊みえぼうなんだろうと、帰って来るなり私はこの人達に不快を感じた。
私は我儘者の常として、見栄坊みえぼうの、負嫌まけぎらいだったから、平生も余り不勉強の方ではなかった。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
多少見栄坊みえぼうの私は、いくらすまして歩いても、なんにもならなくなるのである。
どんなに砕けて応対してもそれはその人のとって置きの時間内での知己である。麻川氏のような見栄坊みえぼうな性格の人はなおさら、どんな親しい友人間としても全部の武装を解除しては逢って居まい。
鶴は病みき (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
文学のことは何にも知らなかったが、はるかに好都合なことには、文学者らに知人をもっていた。そして、金持で俗人だったので一種の見栄坊みえぼうから、内々文学者らの利用するところとなっていた。
彼は腰板の上に双方のはじを折返して小さく畳んだ袴を、風呂敷の中から出して細君の前に置いた。大の見栄坊みえぼうで、ちょっとした包物を持つのもいやがった昔に比べると、今の兄は全く色気が抜けていた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
れいの見栄坊みえぼうの気持から、もし万一ひっぱり出されても、何とかして恥をかかずにすまして、助手さんたちの期待を裏切らぬようにしたいと苦心惨憺さんたんして、さまざま工夫をこらしているさま
パンドラの匣 (新字新仮名) / 太宰治(著)
それに天性の見栄坊みえぼうも手伝って、矢張やっぱり某大家のように、仮令たとい襟垢えりあかの附いた物にもせよ、兎に角羽織も着物もつい飛白かすりの銘仙物で、縮緬ちりめん兵児帯へこおびをグルグル巻にし、左程さほど悪くもない眼に金縁眼鏡きんぶちめがねを掛け
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
ただ御自分を嘲笑ちょうしょうなさっていらっしゃるばかりでは、意味ないわ。ごめんなさい。きっと、あなたは、ひどい見栄坊みえぼうなのよ。ほんとうに、困ってしまいます。ハムレットさま、しっかりなさいませ。
新ハムレット (新字新仮名) / 太宰治(著)
「そんなに見栄坊みえぼうでは、兵隊になれませんよ。」
未帰還の友に (新字新仮名) / 太宰治(著)