血膿ちうみ)” の例文
見ると、その胸や腹は、指で押しても、血膿ちうみにまじった、水がどろりと流れそうに、黄いろくなめらかに、むくんでいる。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
患部は朝ごとに目もあてられぬ斑点はんてんを増して、腫れた所は赤ぐろく耀かがやき、無数といっていいあなからは血膿ちうみを出した。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
僕は全く偶然に一年ほど以前に手に入れたものだが、あゝ、之こそ、僕の疑惑を固く包んだ結核を押しつぶして、ドロ/\の血膿ちうみを胸の中に氾濫させたものなのだ。
そこには額の穴から血膿ちうみを流して倒れている奥村一郎の姿があった。キラキラ光る拳銃ピストルがあった。煙があった。桐の火鉢の五徳ごとくの上に、なかば湯をこぼした鉄瓶があった。
灰神楽 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
雨晴れて月朦朧おぼろの夜にちび筆の軸を伝つてのみ、そのじくじくした欲情のしたたりを紙にとどめ得た。『雨月』『春雨はるさめ』の二草紙はいはばその欲情の血膿ちうみぬぐつたあとの故紙こしだ。
上田秋成の晩年 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
中から血膿ちうみが顔を出しているのを見て気味の悪い思いをした記憶がある。
自由画稿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
いまもその裂目から どくどくと戦争を呪う血膿ちうみをしたたらせる
原爆詩集 (新字新仮名) / 峠三吉(著)
その血膿ちうみに汚れた良人の肌じゅばんを、おえつは、屋敷の中を通ってゆく流れで洗っていたが、ふと
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
血膿ちうみと泥と
原爆詩集 (新字新仮名) / 峠三吉(著)
伊丹城いたみじょうから脱出した晩、暗夜のなかで、何者とも知れぬ敵に一太刀ぎられた左の脚の関節部だった。……そっと、襤褸ぼろをめくってみると、血膿ちうみをふくんだ傷口は大きく口をあいていた。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
武蔵は、血膿ちうみによごれた足のボロを解いていた。あれほど悩ませた患部は、すっかり熱もれもひいて、平べったくなっていた。白くふやけた皮に、ちりめんじわが寄っているだけだった。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
刑部の顔には、血膿ちうみがながれていた。血の涙のように家臣たちには見えた。
大谷刑部 (新字新仮名) / 吉川英治(著)