蜻蛉とんぼう)” の例文
久「蜻蛉とんぼうの出る時分に野良のらへ出て見ろ、赤蜻蛉あかとんぼ彼方あっちったり此方こっちへ往ったり、目まぐらしくって歩けねえからよ」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
白昼まひるの秋の日は荒れた草むらを薄白く照らして、赤い蜻蛉とんぼうが二つ三つ飛んでいる。それを横眼にみながら彼は黙って俯向いていると、侍女どもは交るがわるに京の名所などを訊いた。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
みだれある、魔に囲まれた今日の、日の城の黒雲を穿うがった抜穴の岩に、足がかりを刻んだ様な、久能の石段の下へ着くと、茶店は皆ひしひしと真夜中のごとく戸をとざして、蜻蛉とんぼうも飛ばず。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
蜻蛉とんぼうは亡くなりおわんぬ鶏頭花けいとうか
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
蜻蛉とんぼうの来ては蝿とる笠のうち
澄江堂雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
蝉や蜻蛉とんぼうも沢山にいた。蝙蝠かわほりの飛ぶのもしばしば見た。夏の夕暮には、子供が草鞋わらじげて、「蝙蝠こうもりい」と呼びながら、蝙蝠かわほりを追い廻していたものだが、今は蝙蝠の影など絶えて見ない。
思い出草 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
カチーリ/\と羽根を突くと云うと、むくれんじの玉の返る処が蜻蛉とんぼという虫に似て居りますから、蜻蛉返とんぼうがえりと云って、くる/\ッと返る、蜻蛉とんぼうと云うものは蚊をり喰う虫だと云うので
あれは何だ、と学校でも先生様が叱らしゃりますそうなが、それでめますほどならばの、学校へく生徒に、蜻蛉とんぼう釣るものもりませねば、木登りをする小僧もないはず——一向に留みませぬよ。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
みの蜻蛉とんぼうつるみ子を背負ひ
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
まことを言えば、お身たちは蜘蛛の巣にかかった蝶や蜻蛉とんぼうも同じことで、こうなり果つるはしょせん逃がれぬ運と諦められい。われらはお身達を殺そうとこそすれ、決して救おうとは思わぬ。
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
蜻蛉とんぼうの逆立ちくいの笑ひをり
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
われしずかなれば蜻蛉とんぼう来てとまる
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)