萎々なえなえ)” の例文
殺したい、殺したい、殺して死にたい思うても、そばへ行きゃ、ぼっとにおいのするばかりで、筋も骨も萎々なえなえと、身体がはや、湿ったのりのようになりますだで。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
が、余程以前から、同じやうな色のめた水干すゐかんに、同じやうな萎々なえなえした烏帽子ゑぼしをかけて、同じやうな役目を、飽きずに、毎日、繰返してゐる事だけは、確である。
芋粥 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
(椿ばけ——ばたり。)と切って放すと、枝も葉も萎々なえなえとなって、ばたり。で、国のやみがあかるくなった——そんな意味だったと思います。言葉は気をつけなければ不可いけませんね。
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
目口にそそぐ浪を払い払いする手が、乱れた乳のあたりに萎々なえなえとなると、ひとつ寝の枕に、つんとねたように、砂のふすまに肩をかえて、包みたそうに蓑の片袖を横顔にと引いた姿態なり
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
清水の向畠むこうはたのくずれ土手へ、萎々なえなえとなって腰をいた。前刻のおんなは、勿論の事、もう居ない。が、まだいくらほどの時もたぬと見えて、人の来てむものも、菜を洗うものもなかったのである。
夫人利生記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
羽にともれたように灯影が映る時、八十年やそとしにも近かろう、しわびたおきなの、彫刻また絵画の面より、頬のやや円いのが、萎々なえなえとした禰宜ねぎいでたちで、蚊脛かずねを絞り、鹿革の古ぼけた大きな燧打袋ひうちぶくろを腰に提げ
貝の穴に河童の居る事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)