舗石しきいし)” の例文
すなわちその時まで開いていたモンデトゥール小路の歯状堡しじょうほうをもふさがした。そのためになお数軒の人家にわたる舗石しきいしがめくられた。
二人は無言のまゝ長き舗石しきいしを、大鳥居の方に出で来れり、去れど其処には二輌の腕車くるまを置き棄てたるまゝ、何処いづく行きけん、車夫の影だも見えず
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
はしゃいだ舗石しきいしのうえに、下駄や靴の音が騒々しく聞えて、寒い風が陽気な店の明り先に白い砂を吹き立てていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
吾々は、道に舗石しきいしを敷く。毛虫の往来はもつと贅沢だ。毛虫はその道に絹のカアペツトを張るのだ。虫共はその旅の間中糸を紡ぎつゞけて、その道にずつと絹を膠付けにする。
下は舗石しきいしで敷きつめてある。その真中に太い銅の柱があった。自分は、静かに動く人の海の間に立って、眼をげて、柱の上を見た。柱は眼の届く限り高く真直まっすぐに立っている。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
陽光に反射して見る眼まばゆき舗石しきいしが、円柱の並んだ大建築を取りめぐって放射線状に張り出した広場の中央には、噴泉らしいものもある……そして、今、我々の佇んでいるこの絶巓から
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
うしろに宝石商の飾窻かざりまどあり、舗石しきいしあり、樹の反射あり。
緑の種子 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
舗石しきいししもにこぼれし
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
人なき街路の舗石しきいしの上にまで、星のごとき花や、真珠のごとき露や、繁茂や、美や、生命や、喜悦や、香りなどを、ふりまいていた。
風が高い建物に当って、思うごとく真直まっすぐに抜けられないので、急に稲妻いなずまに折れて、頭の上から、はす舗石しきいしまで吹きおろして来る。自分は歩きながらかぶっていた山高帽やまたかぼうを右の手でおさえた。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
君かへす朝の舗石しきいしさくさくと雪よ林檎の香のごとくふれ
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
自分がはいりもしないその家は何の役にも立たないものであり、踏み歩くその舗石しきいしは単なる石くれであると、人は思うものである。
クレイグ先生はつばめのように四階の上に巣をくっている。舗石しきいしの端に立って見上げたって、窓さえ見えない。下からだんだんと昇って行くと、ももの所が少し痛くなる時分に、ようやく先生の門前に出る。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
声もせぬ通の長い舗石しきいしのうへを
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
この炬火は、風に消されないように三方に舗石しきいしを立てた一種のかごの中に置かれて、その光はすべて旗の上にすようになっていた。
病犬はちんば曳きつつ舗石しきいしをゆく
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
二十人は防寨につけ、六人は屋根裏や二階の窓に潜んで、舗石しきいしの銃眼から襲撃軍を射撃しろ。ひとりでも手をこまぬいていてはいけない。
わたりぬ——しらむ舗石しきいし
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
七歳の娘の手で忘れないためにあらかじめ書き止められた次の罪の告白が拾われたのも、この修道院の舗石しきいしの上においてである。
あがりぬ——ひびく舗石しきいし
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
舗石しきいしを家の中に運べ。窓や屋根裏にそれをあてろ。人員の半分は射撃にかかり、半分は舗石の方にかかるんだ。一刻も猶予はできない。」
接吻くちつけ——にほふ舗石しきいし
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
舗石しきいしいくさ叢林そうりんの戦に劣らず壮烈であり悲壮である。後者には森林の魂がこもっており、前者には都市の魂が籠っている。
舗石しきいしの上、雪の上。
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
石の間に「つんぼ」をさがし回ることは、身の毛のよだつような楽しみである。なお別の楽しみは、急に舗石しきいしを上げて草鞋虫わらじむしを見つけることである。
その角燈の光で彼は馬車の形をはっきり見て取ることができた。小さな白馬に引かれた小馬車であった。彼が聞いた物音は、舗石しきいしの上の馬のひづめの音だった。
カミーユ・デムーランは郭外人であった。奇蹟をけなしたシャンピオンネはパリーの舗石しきいしから出てきた。
その街路には当時人家もなく、舗石しきいしもなく、季節によって緑になったり泥をかぶったりする醜い樹木が植えられていて、パリーの外郭の壁にまっすぐに通じていた。
ああ畜生! そんなことするくらいなら、六階の上から真っ逆様に舗石しきいしの上に身を投げた方がいいわ。今晩ティヤック・ダルジャンの宿屋に待っていると言ったわ。
身をかがめて舗石しきいしの上から一握りの雪を取り、不意にそれを女のあらわな両肩の間の背中に押し込んだ。
その上マリユスは悲しみのうちに沈んでいたので、偶然の悪戯いたずらを取り上げるだけの余裕もなく、街路の舗石しきいしが彼に試みたようなその遊びに心を向けるだけの余裕もなかった。