膃肭獣おっとせい)” の例文
うそ、狐、狸、狗、鹿、鯨、また殊に膃肭獣おっとせいのタケリ、すなわち牡具ぼぐ明礬みょうばんで煮固めて防腐し乾したのを売るを別段不思議と思わず。
さあ、いろいろはなせば長いけれど……あれからすぐ船へ乗り込んで横浜を出て、翌年あくるとしの春から夏へ、主に朝鮮の周囲いまわり膃肭獣おっとせいっていたのさ。
深川女房 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
孤独で、南下すれば膃肭獣おっとせい群をあらす。滅多にでないから、標本もない。マア、僕らは、きょう千載に一遇の機会で、お目にかかれたというわけだ
人外魔境:08 遊魂境 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
私は一揖いちゆうして、タゴール老人の傍に坐った。話題は無論この島における膃肭獣おっとせいの生活以外のものであるはずはなかった
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
世界に三つしかない膃肭獣おっとせいの蕃殖場で、この無人の砂浜は、毎年、五月の中旬から九月の末ごろまで、膃肭獣どもの産褥となり、逞しい情欲の寝床となる。
海豹島 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
貼紙ペーパーを見給え。膃肭獣おっとせいだよ。膃肭獣の缶詰さ。——あなたは気のふさぐのが病だって云うから、これを一つ献上します。産前、産後、婦人病一切いっさいによろしい。
奇怪な再会 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それでも彼は助かりたい一心で、膃肭獣おっとせいの如く両手でって、そこを逃げだした。
流動物しかれなくなって、彼はベッドに横わり胸を喘ぐだけとなった。鼈四郎は、それが夜店の膃肭獣おっとせい売りの看板である膃肭獣の乾物に似ているので、人間も変れば変るものだと思うだけとなった。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
新らしきあけぼのの波濤に乗り、オホーツクの海阪うなざかを越え、渾沌として黒く漂う浮き脂の大いなるうねりに幾万となく群集して膃肭獣おっとせいの花嫁成牝カウらは来る。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
「人間が、蛙や膃肭獣おっとせいじゃあるまいし、水に棲めるかってんだ。サアサア、早いところ本物をだしてくれ」
人外魔境:05 水棲人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
墓の前には今日でも乞食が三、四人集まっていた。がそんなことはどうでもよい。それよりも僕を驚かしたのは膃肭獣おっとせい供養塔というものの立っていたことである。
本所両国 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
なんのことはない膃肭獣おっとせいのような真似をすること三分、ブルブルと飛び上ってこわひげをすっかりおとすのに四分、一分で口と顔とを洗い、あとの二分で身体をぬぐい失礼ならざる程度の洋服を着て
爬虫館事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
この膃肭獣おっとせいと云うやつは、おすが一匹いる所には、めすが百匹もくっついている。まあ人間にすると、牧野さんと云う所です。そう云えば顔も似ていますな。だからです。
奇怪な再会 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
これは、さるところからまとめて手に入れまして……、さて、訓練にかかったところ、大変なやつが一匹いる。どうも見りゃ海豹あざらしではない。といって、膃肭獣おっとせいでもない、海驢あしかでもない。
人外魔境:08 遊魂境 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
すばらしい海獣の群、膃肭獣おっとせいの成牡(ブル)の水雷、黒褐の無数の肉弾。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
迷惑らしい顔をした牧野は、やっともう一度膃肭獣おっとせいの話へ、危険な話題を一転させた。が、その結果は必ずしも、彼が希望していたような、都合つごういものではなさそうだった。
奇怪な再会 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)