胎児たいじ)” の例文
旧字:胎兒
(人間もその自然のもとにあるものなのに)範宴は自分に宿命した自分の秘密を、時には、不幸な胎児たいじのように不愍ふびんに思うことがあった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
赤ん坊が生れるということさえ不思議であるのに、女の子だときめつけられていた胎児たいじが男であったということは、ますます意外であった。
親馬鹿入堂記 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
揚句あげくはてに彼と夫人との間にできた胎児たいじが、ポロッと子宮壁しきゅうへきからはがれおちて外部へ流れ出し、完全に堕胎の目的を達しようというのだった。
振動魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
多分やみから闇にとりた胎児たいじを埋めたのであろう。鴫田の婆さんは、自家うちの山に其様そんな事でもしられちゃ大変だ、と云うて畑の草の中なぞつえのさきでせゝって居たそうだ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
生れてきた胎児たいじの血液型を検査すれば、それが誰のたねであるか位は、何の苦もなく判ってよ、それに貴方あなた右策うさくとは切っても切れない患者と主治医しゅじいじゃありませんこと。
振動魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
もし、順調じゅんちょう胎児たいじがうまれたとすれば、男か女かよくわからないにしても、子供が十歳になるときに私は早くも六十である。あと十年、この身体がたもてるかどうか。おそらく私は生きてはいまい。
親馬鹿入堂記 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
ほかの生きいを、胎児たいじのように、今はさぐっている気もちであろう。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
栄螺さざえの内臓でなくして、実は、君の血肉ちにくけた、あの胎児たいじだったとしたら、ハテ君は矢張り
恐しき通夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
母体が肺結核はいけっかくとか慢性腎臓炎まんせいじんぞうえんであるとかで、胎児たいじの成長や分娩ぶんべんやが、母体の生命をおびやかすような場合とか、母体が悪質の遺伝病を持っている場合とかに始めて人工流産をすることが
恐しき通夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
というのは、自分達が手を下して闇から闇へ送ってしまった胎児たいじの怨霊のせいに違いないと思いこんでしまう。さァ、こうなると、旦那どのの計画は、いよいよ思うつぼはまっていったというわけだ。
夜泣き鉄骨 (新字新仮名) / 海野十三(著)