翫具おもちゃ)” の例文
こんなことを叔父に語った。正太は紀文がのこしたという翫具おもちゃの話なぞを引いて、さすがに風雅な人は面白いところが有る、とも言った。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
色の蒼い、体の尫弱ひよわそうなその子は、いろいろな翫具おもちゃを取り出してしばらく静子と遊んでいるかと思うと、じきに飽きてしまうらしかった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
書画や骨董をもてあそぶのは何よりのたのしみだという人もあろうが主人一人のなぐさみで妻君や家族は一向書画の趣味を解せん。してみると主人一人の翫具おもちゃだ。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
いつ頃からの風俗か知らぬが蒲団ふとんから何から何までが赤いずくめで、枕許まくらもとには赤い木兎、赤い達磨を初め赤い翫具おもちゃを列べ、疱瘡ッ子の読物よみものとして紅摺べにずりの絵本までが出板しゅっぱんされた。
お銀は溜息をきながら、庭の涼しい木蔭を歩いたり、部屋へあがって翫具おもちゃを当てがったりしていたが、子供は悦ばなかった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
土産みやげにと用意して来た翫具おもちゃを曾根が取出して、それを見せても、聞入れない。お雪はこの光景ありさまを見ていたが、やがてお房を抱取って、炉辺の方へ行って了った。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
台所では毎日緑青のいた有毒食物をきっしながら二百円も三百円も奮発して贅沢な翫具おもちゃを買うのだね。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
小林の家から、浅井が途中で買った翫具おもちゃなどを持たせて、その子をつれて戻った時、お増は物珍しそうに、話をしかけたり、膝に抱き上げたりした。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
玄関のすみには、正太が意匠した翫具おもちゃの空箱が沢山積重ねてあった。郷里くにから取寄せた橋本の薬の看板も立掛けてあった。復た逢う約束をして、三吉は甥に別れた。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
子供を育てるには翫具おもちゃの種類画本の良否行儀作法の仕込方しこみかた読書や習字の稽古けいこなんぞと必要な点が沢山あって一朝一夕いっちょういっせきに説き尽せないが君に一つ調べてもらいたいのは家庭教育の主義と方針だね。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
ある日も咲子は、学校から退けて来ると、彼女の帰るのを待っていた瑠美子と、縁側で翫具おもちゃを並べて遊んでいた。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
これは岸本が志賀の友人にたくして、箱根細工の翫具おもちゃを留守宅へ送り届けたその礼であった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
感じのわるくない六畳で、白いカアテンのかかった硝子窓ガラスまどたなのうえに、少女雑誌や翫具おもちゃがこてこて置かれ、編みかけの緑色のスウェタアが紅い座蒲団ざぶとんのうえにあった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
昼からつれて来た子供は、晩方にはもう翫具おもちゃを持って、独りでそこらにころころ遊んでいた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
きまりだけの仕事をすると、職人は夫婦の外を出歩いているあいだ、この頃ふとした事から思いついた翫具おもちゃの工夫に頭脳あたまを浸して、飯を食うのも忘れているような事が多かった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
初めすばらしい好奇心を引いた翫具おもちゃにもじきに飽きが来て、次ぎ次ぎに新しいものへと手を延ばして行くのと同じに、ろくにはっきりした見定めもつかずに、一旦好いとなると
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
お銀が翫具おもちゃを交換したり、菓子のやり取りをしたりしている神さんも、一人二人あった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
翫具おもちゃの入ったざるなどがやがて運ばれて、正一も大抵そこで寝泊りすることになった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「だから私たちは気晴らしの翫具おもちゃだわ。」
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)