縹色はなだいろ)” の例文
左に二人並んでいるのは、まだどこかの学校にでも通っていそうな廂髪ひさしがみの令嬢で、一人は縹色はなだいろはかま、一人は菫色すみれいろの袴を穿いている。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
旅の若い女性にょしょうは、型摺かたずりの大様な美しい模様をおいたる物を襲うて居る。笠は、浅いへりに、深い縹色はなだいろの布が、うなじを隠すほどに、さがっていた。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
縹色はなだいろ(露草染め)のむらの狩衣に、よい太刀たちいた武者烏帽子むしゃえぼしの武人である。年のころは二十六、七か。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
二等と云う縹色はなだいろの濁った天鵝絨びろうど仕立、ずっと奥深い長い部屋で、何とやら陰気での、人も沢山たんとは見えませいで、この方、乗りましたみぎりには、早や新聞を顔に乗せて、長々と寝た人も見えました。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かずふ空の縹色はなだいろ
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
葛布くず小袴こばかまに、縹色はなだいろ小直垂こひたたれ、道中用の野太刀一腰ひとこし、次の間においているだけだった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
莞爾にこりとその時、女が笑った唇が、縹色はなだいろに真青に見えて、目の前へ——あの近頃の友染向ゆうぜんむきにはありましょう、雁来紅はげいとうを肩から染めた——釣り下げた長襦袢ながじゅばんの、宙にふらふらとかかった、その真中へ
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
弾丸たまが当ると、ガタリざらざらと蛇腹に伸びて、天井からさかさまに、いずれも女の幽霊が、ぬけ上った青い額と、縹色はなだいろの細いあごを、ひょろひょろ毛から突出して、背筋を中反りに蜘蛛くものような手とともに
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)