綴糸とじいと)” の例文
今わが家蔵かぞうの古書法帖ほうじょうのたぐひその破れし表紙切れし綴糸とじいと大方おおかたは見事に取つぐなはれたる、皆その頃八重が心づくしの形見ぞかし。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
半之助は、日記や見聞記をも照合しながら、幾たびも読み返し、ついには綴糸とじいとを切って、消してある部分を裏から見たりした。しかし辛うじて
山彦乙女 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
さて、奧木茂之助は、只機が織り上るとちゃんと之を畳みまして綴糸とじいとを附ける。
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
自分は話をしながら、自分の敷いている座蒲団の綴糸とじいとというのか、くくりひもというのか、あのふさのような四隅の糸の一つを無意識に指先でもてあそび、ぐいと引っぱったりなどしていたのでした。
人間失格 (新字新仮名) / 太宰治(著)
くしゃみもならず、苦り切って衝立つッたっておりますると、蝙蝠は翼を返して、ななめに低う夜着の綴糸とじいとも震うばかり、何も知らないですやすやと寐ている、お雪の寝姿の周囲ぐるりをば、ぐるり、ぐるり、ぐるりと三度。
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
買って来る書物はたいていいたんでいる、頁が千切れたり、端がまくれたり、綴糸とじいとがほつれたり表紙が破れたり、題簽だいせんの無いものなども少なくない、それを丹念に直して、好みの装幀をして
ひやめし物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
八重その頃はいえの妻となり朝餉あさげ夕餉ゆうげの仕度はおろか、いささかのいとまあればわが心付こころづかざるうちに机のちりを払ひすずりを清め筆を洗ひ、あるいは蘭の鉢物はちものの虫を取り、あるいは古書の綴糸とじいとの切れしをつくろふなど
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
とこ綴糸とじいとを引張って
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)