紅閨こうけい)” の例文
深窓の美姫びき紅閨こうけい艶姐えんそ綾羅錦繍りょうらきんしゅうたもとを揃えて、一種異様の勧工場、六六館の婦人慈善会は冬枯に時ならぬ梅桜桃李ばいおうとうりの花を咲かせて、暗香あんこう堂に馥郁ふくいくたり。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
客でも何んでもない、唯の旅人が、博多名物の一つとして、五圓の觀覽料を拂つて、そのあやしくも美しい、濃艶怪奇を極めた紅閨こうけいを見せてもらつたものです。
このような楚々そそたる麗人れいじんを、妻と呼んで、きたきた紅閨こうけいようすることの許された吾が友人柿丘秋郎こそは、世の中で一番不足のない果報者中かほうものちゅうの果報者だと云わなければならないのだった。
振動魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
金の額ぶちのように背負しょって、揚々として大得意のていで、紅閨こうけいのあとを一散歩、ぜいる黒外套が、悠然と、柳を眺め、池をのぞき、火の見を仰いで、移香うつりが惜気おしげなく、えいざましに
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「名案じゃ」「名案、名案!」と、たちまち一せいに拍手があって、若侍は半分は好意的に、あと半分はいま紅閨こうけいにお妙をようしているであろうことを岡焼おかやき的に、この緊急動議を決定してしまった。
くろがね天狗 (新字新仮名) / 海野十三(著)
仏蘭西フランスの古典らしい油絵の少女で、その隣のを押し開けると、次の間は小さく纏まった寝室、所謂いわゆるハイカラにした紅閨こうけいで、小卓にも、寝台にも、羽根布団にも、若い娘の好みらしい、可愛らしさと
笑う悪魔 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)