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篋
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かたみ
此時程済は辛くも
篋を砕き得て、
篋中の物を
取出す。
出でたる物は
抑何ぞ。
釈門の人ならで
誰かは要すべき、大内などには有るべくも無き
度牒というもの三
張ありたり。
昔
高帝升遐したもう時、
遺篋あり、大難に臨まば
発くべしと
宣いぬ。謹んで
奉先殿の左に収め奉れりと。
羣臣口々に、
疾く
出すべしという。
宦者忽にして一の
紅なる
篋を
舁き
来りぬ。
袈裟、僧帽、
鞋、
剃刀、一々
倶に備わりて、銀十
錠添わり
居ぬ。
篋の内に朱書あり、
之を読むに、応文は
鬼門より
出で、
余は
水関御溝よりして行き、薄暮にして
神楽観の
西房に会せよ、とあり。