箒木ははきぎ)” の例文
巨大な箒木ははきぎのそれのように、建物の屋根をぬきんでて、空を摩している形があったが、薬研堀やげんぼり不動の森の木であった。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それはとにかく、元素の名前に「桐壺きりつぼ」「箒木ははきぎ」などというのをつけてひとりで喜んでいる変わった男も若干はあってもおもしろいではないかと思うことがある。
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
月を待つのおとぎにとて、その坊さんが話すのですが、薗原山そのはらやま木賊刈とくさがり伏屋里ふせやのさと箒木ははきぎ、更科山の老桂ふるかつら千曲川ちくまがわ細石さざれいし、姨捨山の姥石うばのいしなぞッて、標題みだしばかりでも、妙にあわれに
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
はては片足進みて片足戻る程のおかしさ、自分ながら訳も分らず、名物くり強飯こわめしうるいえ牀几しょうぎに腰打掛うちかけてまず/\と案じ始めけるが、箒木ははきぎは山の中にも胸の中にも、有無分明うむぶんみょうに定まらず
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
如此かくのごと決定さだかにそれとは無けれど又有りとし見ゆる箒木ははきぎの好運を望みつつも、彼は怠らず貫一を愛してゐたり。貫一は彼の己を愛する外にはその胸の中に何もあらじとのみ思へるなりけり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
よどみもなく小娘は読みすすんでいた。源氏物語もこの「空蝉」や「箒木ははきぎ」や「夕顔」の帖などは、たれもくところなので、もう何十遍も読みかえしているらしく、暗誦そらんじているほどだった。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
が、何だか地体は更に解らぬ。依てさらに又勇気を振起して唯この一点に注意を集め、傍目わきめも触らさず一心不乱に茲処ここ先途せんどと解剖して見るが、歌人の所謂いわゆる箒木ははきぎで有りとは見えて、どうも解らぬ。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
まばらにふる箒木ははきぎや、新墾にひばり小田をだの末かけて
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
箒木ははきぎの倒れふみ立すゞめかな 配力はいりき
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)