知死期ちしご)” の例文
意気地のない男などが、まるで知死期ちしごの苦しみのように口を歪め歯を喰いしばり、ひい/\と悲鳴をあげる事があると、彼は
刺青 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
夏頃から夜な夜なここで抱かれていた当の恋人が、知死期ちしごの苦悶を型づけながら死んでいる姿を見たら、とても耐えられるものであるまい。
うすゆき抄 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
おっかさんがあぶって上げよう、)と、お絹は一世の思出おもいで知死期ちしごは不思議のいい目を見せて、たよたよとして火鉢にった。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
花袋は自家の屋根の下で家族にまもられて死んでいったのであるが、その知死期ちしごのきわでかれの眼に浮んだのはこの嵐の中の月ではなかったろうか。
マルメラードフは知死期ちしごの苦しみに襲われていた。彼はその目を、またかがみ込んだ妻の顔から放さなかった。
「よくごらんなさい。死骸しがいですよ。断末魔だんまつまです。知死期ちしごです。わたしの自慢の作品ですよ」
悪霊物語 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そうであろ、いかに頑是がんぜないころであったにいたせ、生みの母御の、知死期ちしごの苦しみを、ひしと身にこたえなかったはずがない——かの三斎どのこそ、父御ててごを陥れたのみではなく、母御を
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
キャッと知死期ちしごの悲鳴を最後に、手足の指をぶる/\とわなゝかせ、虚空を掴んでバッタリ倒れてしまった。
少年 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
取留とりとめのない考えが浮んだのも人が知死期ちしごちかづいたからだとふと気が付いた。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
里春の知死期ちしごの叫び声は象の脚元にいた植亀や藤助の耳にも聞えなかった。
知死期ちしごのうめきが洩れて、やがて、上半身がうしろにのけぞったと思うと、腰がくだけて、ドタリと横ざまに朽木くちきのように仆れたが、それと間髪をいれず、今一人の、生きのこりが、われにもなく
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
取留とりとめのないかんがへうかんだのもひと知死期ちしごちかづいたからだといた。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)