瞭然はつきり)” の例文
もともと片方かたはうは暗い二條通に接してゐる街角になつてゐるので、暗いのは當然たうぜんであつたが、その隣家が寺町通りにある家にもかかはらず暗かつたのが瞭然はつきりしない。
檸檬 (旧字旧仮名) / 梶井基次郎(著)
山も森も何れもみな月光の裡に睡つて水の滴り相な輪郭を靜かな初秋の夜の空に瞭然はつきりと示して居る。
姉妹 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
さうしてそれ等の着物のしまや模様や色合ひなどが、一つ一つ仔細に瞭然はつきりと思ひ浮ばれた。又それにつれてそれ等の一かさね一かさねが持つて居るおのおのの歴史を追想した。
雪の下が如何に肺病の蒼白い皮膚を滑らかな苔の上に擦りつけるか瞭然はつきり感知し洞察する事が出来る。
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
それに栄一は近頃眼が悪くなつて、瞭然はつきり長時間読書が出来ない上に、耳も悪かつたのである。眼はトラホームが感染したのだと感付いて居たが、自分の為めにはどうも金が無い。
わざとまぎらはして『——多分たぶんちになるでせう、競技ゲームむまでは瞭然はつきりへないけど』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
號室がうしつだい番目ばんめは、元來もと郵便局いうびんきよくとやらにつとめたをとこで、いやうな、すこ狡猾ずるいやうな、ひくい、せたブロンヂンの、利發りかうらしい瞭然はつきりとした愉快ゆくわい眼付めつきちよつるとまる正氣しやうきのやうである。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)