相対峙あいたいじ)” の例文
旧字:相對峙
塾長と塾生とが川をへだてて相対峙あいたいじしているような格好では、懇談できない。第一、これでは君らおたがいの間の話し合いに不便だろう。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
その中にあって、京都の守護をもって任じ、帝の御親任も厚かった会津が、次第に長州と相対峙あいたいじする形勢にあったことを忘れてはならない。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
若杉さん自身も、あの泥棒と相対峙あいたいじした一分間ばかりの、息も詰まるような、不快な、不安な圧迫から、なかなか抜けきることができませんでした。
若杉裁判長 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
だが、大軍と大軍は、相対峙あいたいじしたままで、一ヵ月余も、兵を交えずに、そのまま、別れてしまったのである。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
みずからその場に居合わして、彼は相対峙あいたいじせる二人を見たのである。だが、不幸な人、本当に恐ろしく不幸な人と感じられるのは、ひとり兄ドミトリイだけであった。
両々相対峙あいたいじして譲らず、一時はこのために会が決裂するかとも思われたが、その時、座長の近衛篤麿公が、やおら立ち上って、支那の革命を主張せられる御意見も、また
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
上述の如く、近藤の新撰組と、伊東を盟主とする御陵衛士隊とは、相対峙あいたいじして形勢風雲をはらんだ。どのみち、血の雨を降らさないことには両立のできない体勢になっている。
当時硯友社と相対峙あいたいじした団体は思軒しけん篁村こうそん、三昧、得知ら一派のいわゆる根岸党であった。
ふと眼がかち合うと、疑いに満ち、相対峙あいたいじして譲らない二つの心が、稲妻のように閃き、角力すまおうとするのを、互に鋭く感じる。そんな瞬間、言葉は空虚に感じられて恥しい。
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
公然と戦場で彼の敵と相対峙あいたいじするのは正気の沙汰さたではなかった。なにしろ敵は恋路を邪魔されて引きさがるような男でないことは、あの嵐のように女を愛したアキレス同然である。
たちまち室内の電灯はサッと消えて、暗黒となった。阿鼻叫喚あびきょうかんの声、器物の壊れる音——その中に嵐のように荒れ狂う銃声があった。正面と出口とに相対峙あいたいじして、パッパッパッと真紅な焔が物凄くひらめいた。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
燃えるような鶏冠とさかの周囲に、地鶏は黄の、レグホンは白の、頸毛の円を描いて、三四寸の距離に相対峙あいたいじしている。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
両軍が山崎に会して、このあしたを、生の日か死の日かと期して相対峙あいたいじしたとき、秀吉から光秀へ「戦書」を送ったとも伝えられているが、果たして、そういう余裕があったかどうか。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
薩長共の蠢動しゅんどうが結局、徒労に終ることを冷笑する空気が圧倒的でありましたが、最後に、最悪の場合を覚悟するとして、関西の勢力が朝廷を擁し、関東と相対峙あいたいじするような形勢となると
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
二人が、かたき同士のように黙って相対峙あいたいじしているうちに、二三分過ぎた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)