目容めつき)” の例文
新吉は黒い指頭ゆびさきに、臭い莨をつまんで、真鍮しんちゅう煙管きせるに詰めて、炭の粉をけた鉄瓶てつびんの下で火をけると、思案深い目容めつきをして、濃い煙をいていた。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
切立ての銘撰めいせんの小袖を着込んで、目眩まぶしいような目容めつきで、あっちへ行って立ったり、こっちへ来て坐ったりしていた。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
むかし品川で芸者をしていたとかいうその母親は、体の小肥ぶとりに肥った、目容めつき愛嬌あいきょうのある鼻の低い婆さんであった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「前に来た時分からみると、ここの家も随分汚くなりましたね。」お銀はちらちらするような目容めつきをした。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「お国さんが帰って?」と小僧に訊くと、小僧は「今帰りましたよ。」と胡散うさんくさい目容めつきでお作を見た。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
『フン、また芝居だろ。』とお大は赭顏あからがほに血走つたやうな目容めつきをして、『い年をして好い氣だね。』
絶望 (旧字旧仮名) / 徳田秋声(著)
「外聞が悪いから、いい加減にしときなよ。」と、爺さんは内儀かみさんのいびり方がはげしくなると、眠いような細い目容めつきをして、重い体をのそのそと表へ出て行った。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
そこでは焼いたり切つたりするのは、いたづらに目蓋まぶたを傷つけるばかり、かへつて目容めつきを醜くするし、気永に療治した方がいゝといふので、其の通りにしてゐるのであつた。
チビの魂 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
帽子もかぶらないで、ピンヘットを耳のところに挟んだような、目容めつきのこわらしい男や、黒足袋をはいて襷がけしたような女の往来ゆききしている中に、子供の手を引いた夫婦連れや
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
笹村はお銀の生立ちについて、また何かを嗅ぎ出そうとしているような目容めつきで言った。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「あの人目容めつきがなかなか油断ならないって、北山さんがそう言っていますよ。」
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
台所には、青い枝豆の束が、差し込んで来る日にあぶられたまま、かまどの傍においてあった。風が裏手の広い笹原をざわざわと吹き渡っている。笹村は物を探るような目容めつきで、深山の家へ入っていった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)