だらい)” の例文
女中や番頭に取り巻かれて、すすぎだらいの前へ腰かけたのは、商家の内儀ないぎらしい年増の女と、地味なしまものを着た手代てだい風の男であった。
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「じゃ一万円でいいわ、ふふ、一万円の恋人ね、あたい、はたらくことにするわ、縁日の金魚だらいに出てゆくわ。」
蜜のあわれ (新字新仮名) / 室生犀星(著)
バケツとかなだらいに水を湛へて折れ残りたる萩の泥を洗へりしかど、空しく足の痛みを増したるばかりにて、泥つきし枝のさきは蕾腐りて終に花咲くことなかりき。
小園の記 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
それが火曜日の朝ならばごしごしと洗濯だらいでアンナ・リヴォーヴナの下着をもむのであった。
赤い貨車 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
葛籠つづらの類、古めかしい陶器類、それらに混って、異様に目をきますのは、鉄漿おはぐろの道具だという、巨大なおわんの様な塗物ぬりもの、塗りだらい、それには皆、年数がたって赤くなってはいますけれど
人でなしの恋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
おおきな洗濯だらいが転がっておりましたわ。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
山の旅籠はたごにつくと、端公のせつは、いち早く、裏口へ廻って湯玉のたぎるような熱湯をたたえた洗足だらいを抱えてきた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)