皺腹しわばら)” の例文
この遺書蝋燭の下にてしたためおり候ところ、只今燃尽き候。最早あらたに燭火をともし候にも及ばず、窓の雪明りにて、皺腹しわばら掻切かっきり候ほどの事は出来申すべく候。
彼は明治九年前原一誠の乱、嫌疑をこうむり、官囚となるをいさぎよしとせず、みずから六十余歳の皺腹しわばらほふりて死せり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
『して、相手方の、数右衛門は何うなりましょうな。その次第に依っては、一閑の皺腹しわばらしても、娘の汚名を洗わねば、他家へ白無垢しろむくは着せてやれませぬが』
濞かみ浪人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
眼鏡を懸けて刀を選出えりだし、座を構え、諸肌脱ぎ、皺腹しわばらつばをなすり、白刃しらは逆手さかてに大音声、「腹を切る、止めまいぞ、邪魔する奴は冥土めいど道連みちづれ、差違えるぞ、さよう心得ろ。」
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その皺腹しわばらから大腸ひゃくひろをくり出すところなんざ、とんと見られたざまじゃあるまい。
顎十郎捕物帳:05 ねずみ (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「よろしゅうございまする。佐渡守様が何とおっしゃりましょうとも、万一の場合には、宇左衛門皺腹しわばらつかまつれば、すむ事でございまする。わたくし一人ひとり粗忽そこつにして、きっと御登城おさせ申しましょう。」
忠義 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
賄賂をとって証拠湮滅いんめつをはかったのだろうなどと、痛くもない腹をさぐられるようなことにでもなったら、それこそ、のめのめと生きながらえているわけにはゆかぬ、まさに皺腹しわばらものである。
顎十郎捕物帳:02 稲荷の使 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「甥めは、この勝家に、皺腹しわばらを切らす男じゃ。……ああ、何たる奴」
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)