かゆ)” の例文
体がかゆくて困るといわれてうちの代診の工夫で硫黄いおう風呂ふろを立てたこともあり、最上もがみ高湯の湯花を用いたことなどもあった。
三筋町界隈 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
顔のどの部分と言わずかゆい吹出ものがして、み、れあがり、そこから血が流れて来た。おさえがたく若々しい青春のうしおは身体中をけめぐった。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
犬は自分の汚さは自覚していないが、しかしかゆいことは感ずるから後脚でしきりにぼりぼり首の周りを掻いていた。
二科展院展急行瞥見 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
へえー……なにを。長「松花堂しようくわだうの三けう醋吸すすひで、風袋ふうたい文字もんじ紫印金むらさきいんきんだ、よく見ておぼえて置け。弥「へえー紫色むらさきいろのいんきんだえ、あれはかゆくつていけねえもんだ。 ...
にゆう (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
そして、僅かに一撫ですると火のようにほてっていた傷のほてりが、湯気のたちのぼって消えるようになくなってしまった。再び撫でまわすとかゆいようないい気もちになった。
嬌娜 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
かゆき処へ手の届く、都の如才内儀の世話程にこそなけれ、田舎気質の律義なるに評判売れて、次第に客の数も殖ゑ。いつしか下宿屋専業とはなりて、おひおひ広やかなる方に引移りたまひたれば。
葛のうら葉 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
さてしばらくまどろんだと思ふ時分にくびの処に焼けるやうなかゆさを覚えて目をました。私は維也納ウインナ以来のしばしばの経験で直ぐ南京ナンキン虫だといふことを知つた。
南京虫日記 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
それは牛の角のかゆくなるといふ頃で、斯の枯々な山躑躅が黄や赤に咲乱れて居たことを思出した。そここゝにわらびる子供の群を思出した。山鳩のく声を思出した。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
藪蚊と毒虫にさゝれるのでかゆくて堪りませんから、掻きながら様子を立聞をして居ました。
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)