痩身そうしん)” の例文
イカバッドが懸命になって逃げようとし、長い痩身そうしんを馬の頭の前にのりだすと、その薄っぺらな洋服は空にぱたぱたひるがえった。
加うるにその痩身そうしんは生来決して頑健ではない。かつまた、蜀の内部にも、これ以上、勝敗の遷延せんえんを無限の対峙たいじにまかせておけない事情もある。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それは、以前の白衣の女とは似ても似つかぬ、黒衣覆面にして、両刀を帯び、病めるものの如き痩身そうしんの姿でありました。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その男は、盲縞めくらじまのつかれたあわせに、無造作に帯を巻きつけ、よもぎのような頭の海風かいふうに逆立たせて、そのせいか、際立って頬骨ほほぼねの目立つ顔を持った痩身そうしんの男であった。
腐った蜉蝣 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
漢籍かんせきを積んだ床の間を背にした慷堂は、砂馬が「じじい」とか「じいさん」とか言っていたのから想像したほどの老人でもなかったが、小柄な痩身そうしんはいかにもじじい臭く
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
と誰かいうと、このお旗本は、杯口ちょくを下のぜんの上において、痩身そうしんの男が、猫のように丸めた背中をくねらし、木乃伊みいらみたいに黒い長い顔から、つまみよせた小さな眼を光らせて
その、左右に、直参髷じきさんまげの武家、いずれも中年なのが二人、うしろには、富裕なしかし商略に鋭そうな目付をした、顴骨かんこつの張った痩身そうしんの男が控えていた。その外は、供の者であろう——
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
こんなチッポケな痩身そうしんのどこからでると思うようながねの声で応援団のように熱狂乱舞して合いの手に胴間声にメッキのようなツヤをかぶせて御婦人を讃美礼讃したり口説いたりする。
オモチャ箱 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
危機のおびやかしが寒気とともに痩身そうしんに迫ってくる。
さかやきの浪人であります。年二十七、八、肩幅のわりに痩身そうしんではあるが、浅黒い皮膚には精悍せいかんな健康が魚油ぎょゆを塗ったようにみなぎっている。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その青春もさかりにかかって、薄い痩身そうしんんでくるしそうにせきいている姿などを見かけると、家臣は胸を傷めただけでなく暗然ともしたものだった。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
痩身そうしんの優しい目つきともとれるのに、正行はいつもこのひとに会うとかたくなった。亡き父にはまだどこかあまえられるところもあったが、親房にはみじんもそんなゆとりは持てなかった。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
当の安成やすなり三五兵衛その者は、どういう人かと見ると、これはまた、痩身そうしんころもにも耐えずという風采すがたで、まなざしは執着のねばりを示し、眉は神経質に細くひいて、顔いろだけが長い旅にけているが
八寒道中 (新字新仮名) / 吉川英治(著)