したた)” の例文
彼はつひに堪へかねたる気色けしきにて障子を推啓おしあくれば、すずしき空に懸れる片割月かたわれづき真向まむきに彼のおもてに照りて、彼の愁ふるまなこは又したたかにその光を望めり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
何物か私のかおの上にかぶさったようで、暖かな息が微かに頬に触れ、「憎らしいよ!」と笑を含んだ小声が耳元でするより早く、夜着の上に投出していた二の腕をしたたつねられた時
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
と言ひもへず煙管きせるを取りて、彼は貫一の横膝よこひざをば或る念力ねんりき強くしたたか推したり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
あやしみ問はるるにはくも答へずして、貫一は余りに不思議なる今日の始末を、その余波なごりは今もとどろく胸の内にしたた思回おもひめぐらして、又むなししんいたみ、こんは驚くといへども、我やいかる可き、事やあはれむべき
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)