痛痒いたがゆ)” の例文
おなつは緊張から解かれ、失望と安堵あんどとのいりまじった、痛痒いたがゆいような気持でそっとひきさがった、そして障子を閉めようとしたとき
契りきぬ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
朝起きて着物をきる時、下腹の或処に、触るといやに痛痒いたがゆいような腫物が一ツ、ぽつりと吹出ているのに心づいた。千代子はびっくりした。
心づくし (新字新仮名) / 永井荷風(著)
眼はただ一人助かったなれど、その代り右の手の甲を毒虫にされたので、それがいつまでも痛痒いたがゆくて何んとしても耐えられぬのであった。
怪異黒姫おろし (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
冷やかに眺めてさばき、深く自省に喰い入る痛痒いたがゆ錐揉きりもみのような火の働き、その火の働きの尖は、物恋うるほど内へ内へと執拗しつこく焼き入れて行き
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
痛痒いたがゆい処を引掻ひっかいたくらいでは埒あかねえで、田にしも隠元豆も地だんだをんで喰噛くいかじるだよ。
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼女は猫に特有な日向臭ひなたくさい毛皮の匂を嗅がされ、ザラ/\と皮膚に引つかゝるやうな、痛痒いたがゆい舌ざはりを顔ぢゆうに感じた。そして、突然、たまらなく可愛くなつて来て
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
痛痒いたがゆくなって来ると、叔母は苦しがって泣いていた。それが堪えられなくなると、近所から呼んで来た按摩あんま蚊帳かやのなかへ呼び込んでは、小豆あずきの入った袋で、患部をたたかせた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
信長のことにはすこしも触れて来ないのが、光秀には何となく痛痒いたがゆい気がした。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その不眠の焦燥がまた彼の神経をなおもひどく衰弱させて、さらに激しい憂鬱と不安との渦巻きの中に追い込んだ。皮膚と筋肉との間を痛痒いたがゆい幾百の虫が駆け巡っているような憂鬱感だった。
恐怖城 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
……信乃はじっと坐っていた、ふしぎにこころよいような、復讐ふくしゅうでもしたもののような、一種の痛痒いたがゆい感情がわいてきて、我にもなく微笑さえうかんできた。
めおと蝶 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
彼女は猫に特有な日向臭ひなたくさい毛皮の匂を嗅がされ、ザラ/\と皮膚に引つかゝるやうな、痛痒いたがゆい舌ざはりを顔ぢゆうに感じた。そして、突然、たまらなく可愛くなつて来て
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
母親は齲歯むしば痛痒いたがゆく腐ったような肉を吸いながら、人事ひとごとのように聞いていた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
彼女は猫に特有な日向臭ひなたくさい毛皮のにおいがされ、ザラザラと皮膚に引っかかるような、痛痒いたがゆい舌ざわりを顔じゅうに感じた。そして、突然、たまらなく可愛くなって来て
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
彼はえきってしまった古創ふるきずあとに触わられるような、心持ち痛痒いたがゆいような感じで、すっかりちまたの女になりきってしまって、悪くぶくぶくしている彼女の体を引っ張っているのが物憂ものうかった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)