痕迹あとかた)” の例文
こう云う記憶の、しだいに沈んで痕迹あとかたもなくなるまで、御互の顔を見ずに過すほど、宗助と安井とは疎遠ではなかった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
たちまちその「ましん」も生徒もけぶりの如く痕迹あとかたもなく消えせて、ふとまた木目が眼に入った。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
此日隣のは弥々いよいよ浅ましい姿になって其惨状は筆にも紙にも尽されぬ。一度光景ようすうかがおうとして、ヒョッと眼をいて視て、慄然ぞっとした。もう顔の痕迹あとかたもない。骨を離れて流れて了ったのだ。
記憶きおくの、次第しだいしづんで痕迹あとかたもなくなるまで御互おたがひかほずにすごほど宗助そうすけ安井やすゐとは疎遠そゑんではなかつた。二人ふたり毎日まいにち學校がくかう出合であばかりでなく、依然いぜんとして夏休なつやすまへとほ徃來わうらいつゞけてゐた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)