甲斐絹かひき)” の例文
其時そのときすはつて蒲団ふとんが、蒼味あをみ甲斐絹かひきで、成程なるほどむらさきしまがあつたので、あだかすで盤石ばんじやく双六すごろく対向さしむかひにつたがして、夫婦ふうふかほ見合みあはせて、おもはず微笑ほゝえんだ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
さや/\と衣摺れの音の聞えるのは、羽二重か甲斐絹かひき精巧せいかう綸子りんずでなければなりません。
銭形平次捕物控:126 辻斬 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
が、黒い垢すりの甲斐絹かひきが何度となく上をこすつても、脂気あぶらけの抜けた、小皺の多い皮膚からは、垢と云ふ程の垢も出て来ない。それがふと秋らしい寂しい気を起させたのであらう。
戯作三昧 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
かう聞くと共に私のは涙で一杯になつて、例の袋をさぐる手先が見えぬ程でした、それ故父の顔も見ず甲斐絹かひき袋のまゝ渡し升と、父は妙なかほつきしてしばらく其袋をながめて居り升た。
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
赤と青との甲斐絹かひきのごとく
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
緋縮緬などを用ゐ裏には紅絹もみ甲斐絹かひきとうあはす、すなわち一枚にて幾種の半襦袢と継合つぎあはすことを、なほ且長襦袢の如く白きはぎにて蹴出すを得るなり、半襦袢と継合はすために紐を着けたり
当世女装一斑 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)