生汗なまあせ)” の例文
声も立て得ないままを大きく見開いているその猫のタマラナイ姿を一生懸命の思いで、生汗なまあせをかきかき正視しているうちに、私は
冗談に殺す (新字新仮名) / 夢野久作(著)
どちらの額からも、生汗なまあせがダラダラと流れ落ちているが、もう二十分近くも、刀を合わせたきり、あえぎ喘ぎ、同じ言葉を投げあっているだけだ。その言葉も、今はくぐもったうめき声に変っている。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
じりじりとした生汗なまあせである。
悪夢 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
劇場あり……そんなものを見まわしながら生汗なまあせを掻いて行くうちに、やがて蛍色の情熱的な光りに満ち満ちた一つのホールに出た。
冥土行進曲 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
太陽てんとう様が黄色きんなく見えて、生汗なまあせが背中を流れて、ツクツク魚売人さかなうりの商売が情無なさけのうなります。何の因果でこげな人間に生れ付いたか知らん。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
生汗なまあせをポタポタとらしながら鼻眼鏡をかけて出て来た……と思うと、目礼をするように眼を伏せて、力なくニッと笑いつつ消え失せた。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
血の気のない顔に生汗なまあせしたたらせ、白い唇をわななかせつつ互いの顔を睨み合って、肩で呼吸いきをするばかりであった。
名娼満月 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
船首にグングンのしかかって来る断崖だんがい絶壁の姿を間一髪の瀬戸際まで見せ付けられた連中のひたいには皆生汗なまあせにじんだ。
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
又もニジミ出して来る額の生汗なまあせをハンカチで拭いた。そうして急に靴のかかとで半回転をして西の方に背中を向けた。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
やっと右手を動かして、ポケットからハンカチを取り出して、顔一面に流るる生汗なまあせを拭うことが出来た。
冗談に殺す (新字新仮名) / 夢野久作(著)
今にも失神しそうにゴックリと唾を飲み込んで、額からポタポタと生汗なまあせらしながら大きく大きく眼をみはった。その眼を覗き込んで私は思い切り冷やかな笑みを浮かめた。
鉄鎚 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
全身にゾーッと生汗なまあせを掻きながら今一度、静かに左右を振返ってみたが、その彼のおびえた視線は、タッタ今通って来た台所の角の、新しい黒い雨樋の処へピタリと吸い寄せられた。
笑う唖女 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
私の心臓をギューギューと握り締めて、生血なまち生汗なまあせを絞りつくす程の苦しみを投げかけている……不可解の因縁を以て私に絡み付いて、不可思議の運命の渦に私を吸い込みつつある。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そのたんびに腹立たしさがジリジリと倍加して行く。しまいにはその寝息の一つ一つが、極度に残忍な拷問ごうもんか何ぞのように思われて来て、身体からだ中にビッショリと生汗なまあせがニジミ出て来るのです。
狂人は笑う (新字新仮名) / 夢野久作(著)
同時に、全身にビッショリと生汗なまあせを掻いているのに気が付いたが、そのうちに又、フト気が付いて、見るともなく丸卓子テーブルの向う側を見るとハッとした。頭の毛がザワザワと駈け出しかけて又止んだ。
白菊 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
と嘲弄したが、林技師が額の生汗なまあせを拭いて坐り直した。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
私はゾーッとして思わず額の生汗なまあせを撫であげた。
冗談に殺す (新字新仮名) / 夢野久作(著)