生恥いきはじ)” の例文
「そのお方が、もう少し親切にして下されば、わたしも、こんなところへ来て、こんな生恥いきはじをさらさなくても済みましたのに」
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
日本娘の不二子さんは、捕われて生恥いきはじさらさんよりは、危急の場合、この毒嚢の一噛みで、立所たちどころに命を失うことを、どんなに願っていたかしれない。
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
天の橋立の赤前垂あかまえだれにでもタタキ売って、生恥いきはじさらさせてくれようものを……という大阪町人に似合わぬズッパリとした決心を最初からきめていたのであった。
名娼満月 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
きたしょうへかえれば、軍罰に照らされて首を打たれるは必定ひつじょう。といって戦場にとどまれば、秀吉ひでよしの手におさえられて、生恥いきはじをかかねばならぬ窮地きゅうちに落ちたのでござる。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
適当の手段を得ずに、浅間しく生恥いきはじ死恥しにはじをのこすことについての臆病だったのだ。
松井須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
かみのお慈悲で助けられ、生恥いきはじさらすことかとなるたけ人に姿を見られぬよう心して来たのに、未練にもお前達まで集まって此の文治に恥の上塗うわぬりをさせる了簡か、近寄ると生涯義絶するぞ
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
阿難 ——苦なるかな。苦なる哉。わたしはついに妖術に縛られて生ながら青銅の像となる。この生恥いきはじはまだ堪えよう。出家の身として、衆生しゅじょうの眼へ逆に妄執もうしゅうの姿となって永劫に留まることの恐ろしさ。
阿難と呪術師の娘 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「お願いだ。殺してくれ。殺してくれ。この上生恥いきはじをさらすのは耐らない」
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
此の眼病では迚も刀の詮議も仇敵の所在ありかも知れよう道理はない、世に捨てられた私の身の上、なまじいに[#「なまじいに」は底本では「なまじいに」]生恥いきはじを掻くよりもいっその事一思いに割腹して相果てようか
「生きて生恥いきはじさらすより、いっそ死のう」
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
悪魔の子としてこの上生恥いきはじを曝そうより、君と抱き合って死んで行く方が、どれ程嬉しいか。蓑浦君、地上の世界の習慣を忘れ、地上の羞恥を棄てて、今こそ、僕の願いをれて、僕の愛を受けて
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)