独逸語ドイツご)” の例文
別後の情を細叙するにもいとまあらず、引かれて大臣にえっし、委托いたくせられしは独逸語ドイツごにてしるせる文書もんじょの急を要するを翻訳せよとの事なり。
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
罪過の語はアリストテレスが、これを悲哀戯曲論中に用ひしより起原せるものにして、独逸語ドイツご所謂いはゆる「シウルド」これなり。
罪過論 (新字旧仮名) / 石橋忍月(著)
「いや。お前達は知るまいが、独逸語ドイツごでは名詞が男性女性中性の三種類に分れている。英語と違って複雑だからね」
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
唖々子は英語の外に独逸語ドイツごにも通じていたが、晩年にはもっぱら漢文の書にのみ親しみ、現時文壇の新作等には見向きだもせず、常にその言文一致のろうなることをいきどおっていた。
梅雨晴 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「Zweisamkeit! ……」そんな独逸語ドイツごが本当に何年ぶりかで私の口をいて出た。
晩夏 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
元来蟷螂の羽根は彼の首と調和して、すこぶる細長く出来上がったものだが、聞いて見ると全く装飾用だそうで、人間の英語、仏語、独逸語ドイツごのごとくごうも実用にはならん。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「Lied——Craback」(この国のプログラムも大抵は独逸語ドイツごを並べてゐました。)
河童 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
老紳士はかつて外遊視察の途中、彼の都へ数日滞在したときの見聞を思い出して来て、息子の青年には知らしたくない部分だけは独逸語ドイツごなぞ使って、一二、巴里繁昌記はんじょうきを語った。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
院長は、物慣れた独逸語ドイツごで、低声こごえで助手に何やら話しかけると、やがて静かに出て行った。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
在学三年の間は物にならざる羅甸語ラテンごに苦しめられ、物にならざる独逸語ドイツごに窮し、同じく物にならざる仏語ふつごさへ、うろ覚えに覚えて、肝心の専門の書は殆んど読むいとまもなきうちに
『文学論』序 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
Tは独逸語ドイツご堪能たんのうだった。が、彼の机上にあるのはいつも英語の本ばかりだった。
侏儒の言葉 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
成ろう事なら言葉も英語か独逸語ドイツごでやった方がなお一層よさそうに思われる。
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「英語ですか? 独逸語ドイツごですか?」
負けない男 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
はたがひとしきり静かになった。余の左右の手頸は二人の医師に絶えず握られていた。その二人は眼を閉じている余を中にはさんでしものような話をした(その単語はことごとく独逸語ドイツごであった)
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)