片影へんえい)” の例文
では、こうした炎の片影へんえいでなく、真に燃える力をもつ反信長の火元はいったいどこにあるか。聡明そうめいな彼は、すでにその所在を今日では知っている。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのまえに三根夫は、怪星らしいものの片影へんえいすら見なかった。だから、その怪星のとりこになったなどといわれても、さっぱりがてんがいかない。
怪星ガン (新字新仮名) / 海野十三(著)
優れた探偵家のまぬがれ難い衒気げんきであったのか、彼も亦、一度首を突込んだ事件は、それが全く解決してしまうまで、気まぐれな思わせぶりの外には、彼の推理の片影へんえいさえも
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
しきりに登って見たくなった。車中知人O君の札幌さっぽろ農科大学に帰るに会った。夏期休暇に朝鮮漫遊して、今其帰途である。余市よいちに来て、日本海の片影へんえいを見た。余市は北海道林檎りんごの名産地。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
美の探求者たんきゅうしゃであるわたしは、古今の美女のおもばせを慕ってもろもろの書史ふみから、語草かたりぐさから、途上の邂逅かいこうからまで、かずかずの女人をさがしいだし、そのひとたちの生涯の片影へんえいしるしとどめ
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
やがて道は急坂きふはんの上に尽く。此あたりやゝ快濶たる山坡さんばの上、遠くヘルモン山の片影へんえいを見得べしと云ふ。今日は空少し夏霞なつがすみして見えず、余等はこゝにて馬車を下る。エルサレムより約八里。
さびしく物凄ものすごさに、はじめて湖神こしん片影へんえいせつしたおもひがした。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)