熒々けいけい)” の例文
ようやく、幾町かの一部出来かけた堤の新しい土の山に立って、その怖ろしげな眼を、数千の人夫のうえに、熒々けいけいとくばった。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わたくしは枯蘆の中の水たまりによい明星みょうじょう熒々けいけいとして浮いているのに、覚えず立止って、出来もせぬ俳句を考えたりするうち、先へ行く女の姿は早くも夕闇の中にかくれてしまったが
元八まん (新字新仮名) / 永井荷風(著)
熒々けいけいと光りを放つ双眸そうぼうも、すべてがたくましい力感に充ちあふれていた。
荒法師 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
一つは弦之丞が、熒々けいけいたる眼くばりのみで、つかに手をかけたまま抜かずにいるのが、かえって無気味であったかもしれない。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
再び瓦斯ガスストーブに火をつけ、読み残した枕頭ちんとうの書を取ってよみつづけると、興趣の加わるに従って、燈火は熒々けいけいとして更にあかるくなったように思われ、柔に身を包む毛布はいよいよ暖に
西瓜 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
大きな唇をむすび、あごをすこしひいて、熒々けいけいと邪智のかがやく眼をすえながら、四郎は考えこんでいた。そしてうめくように
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
円を描いた双手のうちから、いよいよ、熒々けいけいたる眼光が、新九郎の一点にそそがれている。と鐘巻自斎は心の裡で
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
出額でこの下のかなつぼまなこも、かつてのような遊びをもたず、寝不足か、熒々けいけいと不気味な視線で、めずるように、高氏の姿をいつまでにらまえていた。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼は、程昱に口をつぐませて、自分もしばらく沈思していたが、やがて血色のめた面をあげ、常の如き細い眸に熒々けいけいたる光をひそめながら独りつぶやいた。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いううちにも、すでに彼方の石橋の上では、きゅう行者とさい坊主が、こなたの二人を見つけたか、遠目にも巨眼熒々けいけい、いまにも斬ッてかかってきそうな構えを示していた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「さては? ……」と、針のような細い目を熒々けいけいと一方に向けて、猜疑さいぎの唇を噛んでいた。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ただ、ひときわ異常なのは、熒々けいけいたる二つのひとみ。それはまた人を射るごときものであった。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
同時にオオッと、栴檀刀を大上段にかぶった河内房は、柄頭つかがしら兜巾ときんの辺りに止め、熒々けいけいたる双眼を新九郎の手元へあつめて、両腕の円のうちから隙もあらばただ一挫ひとひしぎにとにじり寄った。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
骨と皮とのようになっていられるだろうとすら想像していた彼のおもては、多少やつれてこそいるが、若い血色にちていたし、何よりは、熒々けいけいとして見える双眸のうちに、驚くべき意志の力が
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)