焼芋やきいも)” の例文
旧字:燒芋
焼芋やきいもを詠みたる俳句は縦令たとい文学としては貴重すべき価値を有するともその品格はついに高貴なる精神を養ふに適せざるが如し、云々。
人々に答ふ (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
小林と母とはすぐ脇の布団の中で、無遠慮にふざけ散らしていたが、そのうち突然母が私に、焼芋やきいもを買って来いと言いつけた。
郷里を立つとき祖母は私にわずかばかりの小遣銭こづかいせんをくれていうに、東京には焼芋やきいもというものがある、腹が減ったらそれを食え。
三筋町界隈 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
兵糧ひょうろうが尽きて焼芋やきいも馬鈴薯じゃがいもで間に合せていたこともあります。もっともこれは僕だけです。叔母は極めて感じの悪い女です。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
お鶴(下女)が行って上げると言うのに、好いと言って、御自分で出かけて、餅菓子もちがし焼芋やきいもを買って来て、御馳走ごちそうしてよ。……お鶴も笑っていましたよ。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
だが、この温和な土地で、大きな別荘に立てこもって、利息の勘定をしながら、家内安全、子孫長久、よそのことはどうでもよい。文化とは何んや、焼芋やきいもの事か。
野良犬のらいぬみたいにそこに寝泊りしていたのですが、その路地のさらに奥のほうに、六十過ぎの婆とその娘と称する四十ちかい大年増が、焼芋やきいもやの屋台を出し、夜寝る時は近くの木賃宿に行き
男女同権 (新字新仮名) / 太宰治(著)
ひどい奴じゃないか、彼奴あいつはもと番太郎で、焼芋やきいもを売ってたが、そのお前芋が筋が多くて薄く切って、そうして高いけれども数が余計にあるもんだから、子供が喜んで買うのが売出しの始めで
やがて「天然居士は空間を研究し、論語を読み、焼芋やきいもを食い、鼻汁はなを垂らす人である」と言文一致体で一気呵成いっきかせいに書き流した、何となくごたごたした文章である。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そのほか喧嘩けんかをしててよ、焼芋やきいもを食べててよなどと、見下した通りを報告する。すると、よしが大きな声を出して笑う。御母さんも、御祖母さんも面白そうに笑う。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
岡田はまたその時分自分の家の食客しょっかくをして、勝手口に近い書生部屋で、勉強もし昼寝ひるねもし、時には焼芋やきいもなども食った。彼らはかようにして互に顔を知り合ったのである。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
毎年まいとしなつの初めに、多くの焼芋やきいも屋が俄然として氷水こほりみづ屋に変化するとき、第一番に馳けつけて、汗も出ないのに、氷菓アイスクリームふものは誠太郎である。氷菓アイスクリームがないときには、氷水こほりみづで我慢する。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
画ハガキモたしかニ受取タ。倫敦ロンドン焼芋やきいもノ味ハドンナカ聞キタイ。