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焼残
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やけのこ
これに心つきて持たるたいまつにて
猶たしかに見れば、
架をくゝしたる
命のつな
焼残りてあり。
昨日火事見舞ながら講釈師の
放牛舎桃林子の宅へ参りました処
同子の宅は
焼残りまして誠に
僥倖だと云って悦んで居りましたが、桃林の
家に町奉行の調べの本が有りまして
堂へ
行かれて、
柱板敷へひらひらと大きくさす月の影、海の
果には
入日の雲が
焼残って、ちらちら
真紅に、
黄昏過ぎの
渾沌とした、水も山も
唯一面の大池の中に、その
軒端洩る夕日の影と
かくてもあられねばなく/\
焼残りたる
綱をしるしにもち、
暗き
夜にたいまつもなく
雪荒に
吹れつゝ
泪もこほるばかりにてなく/\立かへりしが、
夫が
死骸さへ見えざりしと