無反むぞり)” の例文
盤台面ばんだいづらの汚い歯の大きな男で、朴歯ほうばの下駄を穿き、脊割羽織せわりばおりを着て、襞襀ひだの崩れた馬乗袴うまのりばかまをはき、無反むぞりの大刀を差して遣って参り
他の二人は若いが、まん中にいる一人は三十がらみの眼のするどい、ひどく険相な男で、腰には殆んど無反むぞりのずぬけて長い刀を差していた。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その時、大円房覚明は、無反むぞりの戒刀を兜巾ときんのいただきまでふりかぶって、かがりのような双のまなこに必殺の気をみなぎらせ
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とくと拝見させていただきたいものです……ええと、長さは二尺二寸五分というところですか、片切刃かたきりば大切先おおきっさき無反むぞりに近い大板目おおいため沸出来にえできと来ていますね、誰が見ても、相州か
大菩薩峠:27 鈴慕の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
無反むぞり長物ながものを落差しにし、右を懐手にして、左手で竿をのべている。月代さかやきは蒼みわたり、身なりがきっぱりとしているから浪人者ではあるまい、相当の家中かちゅうと見わけられるのである。
顎十郎捕物帳:04 鎌いたち (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
無反むぞりに近い長めの大小の、柄を白糸で巻いたのを差し、わざと袴をつけていないのは、無造作で磊落で瀟洒の性質をさながらに現わしていると云ってよろしく白博多の帯と映り合って
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
六尺たっぷりという身丈に、三尺余る無反むぞりの強刀を横へ、急ぎの旅で夜行するらしく、とっとっと三本榧までやって来た。
だだら団兵衛 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
と続いて六部姿の戸川志摩は、無反むぞりの戒刀を平青眼ひらせいがんに取って、玄蕃の大上段の手元へジリジリと詰めて行った。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
脊割羽織せわりばおり無反むぞりの大小を差し、水口みなくち或は八丈の深い饅頭笠まんじゅうがさかぶって顔を隠したる四五人の侍がまいりました。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
殆んど無反むぞりの長刀を差した一人(それは石黒半兵衛であったが)はべつとして、他の四人はみな足拵あしごしらえをし、鉢巻、たすきという周到な身支度をしていた。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
無反むぞり小長こながいのをし、襠高まちだかはかまをだゞッぴろく穿き、大先生の様に思われますが、賭博打ばくちうちのお手伝でもしようという浪人者を二人連れて、宇治の里の下座敷で一口遣っていると
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
杖に仕込んだ無反むぞりの太刀をキラリと引き抜いて駈け寄りざま、電光石火に郷士の一人を梨割りに斬って捨て、あッとおどろく次の奴を、返す一刀で、腰車を横に一文字、見事にぎ払った。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
顔は見えないが、例の中年の険相な男だろう、左手に三尺ちかい、殆んど無反むぞりの刀を持ち、今にも抜打ちを仕かけそうな、殺気のある身構えで立っていた。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
公孫勝も道士の持つ無反むぞり戒刀かいとうをかざして構えた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
喚いて立った湛左、三尺一寸無反むぞりという、まるで天秤棒てんびんぼうのような強刀を抜いて
武道宵節句 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)