濡手ぬれて)” の例文
慈善と教育との美名のもとに弱い家業の芸人をおどしつけて安く出演させ、切符の押売りで興行をすれば濡手ぬれてあわ大儲おおもうけも出来る。
御覽ごらんなさい大層たいそう蜻蛉とんぼです。」「へゝい。」とおほきな返事へんじをすると、濡手ぬれてながしておよぐやうにつてそらた。
番茶話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
折から縁に出来いできたれる若き女は、結立ゆひたて円髷まるわげ涼しげに、襷掛たすきがけの惜くも見ゆる真白の濡手ぬれてはじきつつ、座敷をのぞき、庭をうかがひ、人見付けたる会釈のゑみをつと浮べて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
我彼に、汝の右に近く寄りそひて臥し、冬の濡手ぬれてのごとくけぶるふたりの幸なき者は誰ぞや 九一—九三
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
その露西亜人は汚れた手先を綺麗に水で洗つたが、さて濡手ぬれてを拭かうにも手帛ハンケチ一つ持ち合はさなかつたので、両手をぶら下げたまゝきよろ/\其辺そこらを見まはしてゐた。
異人さん相手に大物をこなしさえすれば、濡手ぬれてあわの手数料——うまく当れば、あなた江戸一、三井や、鴻池をしのぐ長者にもなれようというのは、今の時勢をいてはありません。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
窓掛の白木綿で、主人が濡手ぬれてを拭いたのを、女中が見て亭主に告口をしたことがある。亭主が苦情を言いに来た処が、もう洗濯せんだくをしてもい頃だと、あべこべに叱って恐れ入らせたそうだ。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)