潤沢じゅんたく)” の例文
旧字:潤澤
「わが弟の袁術えんじゅつは、いささか経理の才がある。袁術をもって、今日より兵糧の奉行とし、諸将の陣に、兵站へいたんの輸送と潤沢じゅんたくを計らしめる」
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お湯は、近頃、お爺さんが裏の納屋の側へ掘り当てた透明な、質の好い水を、青竹の管で呼んで、潤沢じゅんたくに湛えたものを沸かしたのである。
かやの生立 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
礼を言う女のかお潤沢じゅんたくな髪を島田に結うた具合、眼つきに人を引きつけるところ、首筋くびすじから背へかけてすっきりした……どう見てもお浜です。
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
寒く潤沢じゅんたくを帯びたる肌の上に、はっと、一息懸ひといきかけたなら、ただちにって、一朶いちだの雲を起すだろうと思われる。ことに驚くべきは眼の色である。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
だが、父の意にそむいて上京した子は、潤沢じゅんたくな学費を恵まれるわけにいかず、それに加えて、父の家業も思わしくなかったために、送金は途絶とだえがちであった。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
一丈のいわおを、影の先から、水際の継目つぎめまで眺めて、継目から次第に水の上に出る。潤沢じゅんたく気合けあいから、皴皺しゅんしゅの模様を逐一ちくいち吟味ぎんみしてだんだんと登って行く。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
雨上りの夜の天地は墨色すみいろの中にたっぷり水気をとかして、つやっぽい涼味りょうみ潤沢じゅんたくだった。しおになった前屈まえかがみの櫓台の周囲にときどき右往左往する若鰡わかいなの背が星明りにひらめく。
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
その代り、水の潤沢じゅんたくであることは疑いがないらしい。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)