涙痕るいこん)” の例文
優善が家を出た日に書いたもので、一は五百いおて、一は成善に宛ててある。ならび訣別けつべつの書で、所々しょしょ涙痕るいこんいんしている。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
その点、宮本武蔵を語るには非常な明るさがある。他の漂泊さすらい歌人の出家や、涙痕るいこん行脚者あんぎゃしゃを想うほどないたみがない。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ドストみづか露國ロコク平民社界へいみんしやくわい暗澹あんたんたる境遇けふぐふ實踐じつせんしたるひとなり、しかしてその述作じゆつさくするところは、およ露西亞人ロシアジン血痕けつこん涙痕るいこんをこきまぜて、ふべからざる入神にうしん筆語ひつごて、虚實きよじつ兩世界りようせかい出入しゆつにうせり。
罪と罰(内田不知庵訳) (旧字旧仮名) / 北村透谷(著)
といきつくづくじっとわが顔をみまもりたまう、涙痕るいこんしたたるばかりなり。
竜潭譚 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
蒼白い面には苦悶の色がありありと現われていました。気のせいか、一筋の涙痕るいこんが頬を伝うて流れているもののように見えますけれども、やはりよく眠っているには睡っているに違いありません。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
といきつくづくぢつとわが顔をみまもりたまふ、涙痕るいこんしたたるばかりなり。
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)