浅薄あさはか)” の例文
旧字:淺薄
如何に宗教上の偏見があったって、出来て了ったものを今更ら無理に引離す伯父さんでもあるまいに、そこは娘心の浅薄あさはかというようだ。
黒手組 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「平次とやら、いちいちもっとも——その方の申すことは道理だ。金ずくで済まそうと思った私の浅薄あさはかさを勘弁してくれ」
浅薄あさはか表面うわべの装飾やてらいでなく、全人格を挙げて立派に装飾し、それを女子の誇とするようにつとめねばなりません。
離婚について (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
八橋の病気というのを幸いに、彼は日のあるうちに主人を連れて帰ろうと思ったのであるが、そんな浅薄あさはかなくわだては「馬鹿らしい」の一言に破壊された。
籠釣瓶 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
人々はそれを私の浅薄あさはかな人道主義とか感傷センチメントとか笑うかもしれないが、令嬢の日記中には、あらゆる人々の姿がまったく赤裸々の姿であるがままに描き出されている。
令嬢エミーラの日記 (新字新仮名) / 橘外男(著)
そんな時にはこの世界のほかの大世界までが想像されてこれが人間の感じる極致の境だという気もするのに、すさまじいものに冬の月を言ったりする人の浅薄あさはかさが思われる
源氏物語:20 朝顔 (新字新仮名) / 紫式部(著)
浅薄あさはかな感情のためではなく、もっと深刻な思想のために、彼はイエスを裏切ったのであった。
銀三十枚 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
万有進化の遺跡そのものであるという事実すらも「人間は万物の霊長」とか「俺は人間様だぞ」とかいう浅薄あさはか自惚うぬぼれにおおい隠されて、全然、注意されていない状態である。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
貴公はしきりと、いちど失敗したてつを二度は踏まんといったが、その失敗は、棒自身が、棒であることを知らず、剣のごとき気をもって、浅薄あさはかな計画で敵へ近づいたからだ。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その写真には、不実ではないが、いかにも女らしい浅薄あさはかさで、相手の男と自分自身の本当の気持に責任を持たない女のためにまじめな男がとうとう自殺することが描かれていた。
雪の夜 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
浅薄あさはかなる議論なり、視ずや同様なる議論を以て天主教会は千五百年来他の基督教徒を責めつつあるなり、同様なる議論を以てアリビゼンス教徒は殺戮せられ、セルビタスは焼殺せられたり
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
日本で円本の乱出のために芸術小説が行詰ったなぞというのは、浅薄あさはかな考え方であって、やはり日本も、世界の潮流に圧し流され、同じ原因から、既に芸術小説が行詰ったと見るのが正しい。
大衆文芸作法 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
「待て待て、俺の考えようが少し浅薄あさはかだったかも知れないよ。これだけの大仕事に一と月も前から騒いだ人肌地蔵が一と役買っていないということはないな、——フム」
根が浅薄あさはかな生れ附きでございますのとで、とう/\其役目を引受けてしまったのでございます。
三浦老人昔話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ってみない前なら知らぬこと。血気の赴くままを行ってみて、その結果を眼に見、その浅薄あさはか慚愧ざんきしている自分には、生憎ながら、もう熱情が乏しい。雷同らいどうはご免こうむる)
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
俺を引っかけようとしているトリックの浅薄あさはかさ加減はドウダ……そんな古手に引っかかる俺と思うか……と云いたいが今度だけは特別をもって引っかかってやる……その古手を利用してやる。
冗談に殺す (新字新仮名) / 夢野久作(著)