泣言なきごと)” の例文
貧乏咄をして小遣銭こづかいせんにも困るような泣言なきごとを能くいっていても、いつでもゾロリとした常綺羅じょうきらで、困ってるような気振けぶりは少しもなかった。
斎藤緑雨 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
其日誠吾は中々なか/\かねを貸してらうと云はなかつた。代助も三千代みちよが気の毒だとか、可哀想だとか云ふ泣言なきごとは、可成避ける様にした。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
のがれて嬉しいという多くの歌を残しているのと反対に、そんな泣言なきごとはもう流行しなくなってから、かえっておそろしく塵が我々を攻め出した。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「金銀は卑しきものとて手にも触れず、仮初かりそめにも物の直段ねだんを知らず、泣言なきごとを言はず、まことに公家大名くげだいみょう息女そくじょの如し」とは江戸の太夫たゆうの讃美であった。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
「こんな男が君何をやったって出来るものですかね。木賃にごろごろしているより外に能のない男ですよ。なにかの癖にああして泣言なきごとをいいますがね。」
幻影の都市 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
いや、私は余りに帰らぬ思出にふけり過ぎた様である。こんな泣言なきごとを並べるのがこの書物の目的ではなかったのだ。読者よ、どうか私の愚痴ぐちを許して下さい。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
モデルとしてロチスター氏の眼をまた思ひ出すのか! 愼め! 泣言なきごとを云ふな!——感情を持つな!——失望するな! 私はたゞ理性と決心とをじつと持ちつゞけよう。
社会に対する一つの刺戟しげきにするのなら、問題にしてもいいと思うが、一体日本の現在の社会状態は女の腐ったようなもので、絶えず愚痴ぐちをいってみたり、泣言なきごとをいってみたりするが
国民性の問題 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
その代り、取られても泣言なきごとをこぼしちゃ困るぜ
醤油仏 (新字新仮名) / 吉川英治(著)