泉殿いずみどの)” の例文
にわかに取りいそいで、三人のそうはそこから、網代笠あじろがさをかぶり、菊亭晴季きくていはるすえに見おくられて、泉殿いずみどのからいけはしをわたってきた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その水の上へむかしの泉殿いずみどののようなふうに床を高くつくって欄杆らんかんをめぐらした座敷がつき出ておりまして五、六人の男女がうたげをひらいておりました
蘆刈 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
春の花見の岡の御所、秋の月見の浜の御所、泉殿いずみどの松蔭まつかげ殿、馬場殿といった所や、人々の邸宅も三年の間にすっかり朽ち果て、寝所には、月の光がさんさんと降り注いでいた。
そこには泉殿いずみどのとよぶ一棟ひとむね水亭すいていがある。いずみてい障子しょうじにはあわい明かりがもれていた。その燈影とうえいは水にうつって、ものしずかな小波さざなみれている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
水遁すいとん秘法ひほうをもちいて、泉殿いずみどのはしをわたり、いつのまにか、晴季やそうたちのいるへやのどこかにしのびこんでいたのだ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
小一条のたいから泉殿いずみどののあたりには、奏楽がやむと、主の忠平の大きな笑い声やら、客の嬌笑雑語の溢れが、大表の轅門ながえもんから、垣舎かきやのほとりまで、近々と洩れ聞えていた。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ヘイライひとり出て来なかったが、ふと、泉殿いずみどののほとりを見ると、姉妹ともみえるふたりの女性が、をからげ、そでもむすんで、白いはぎもあらわに、流れで何かすすいでいた。
やかたは、中央の大きな母屋おもや寝殿しんでんとよび、また渡殿わたどのという長い廻廊かいろうづたいに、東と西とに対ノ屋が、わかれていた。そのほか、泉殿いずみどのとか、つり殿とかも、すべて中心のかくをめぐっている。