池上いけがみ)” の例文
万延元年の十月、きょうは池上いけがみ会式えしきというので、八丁堀同心室積藤四郎がふたりの手先を連れて、早朝から本門寺界隈かいわいを検分に出た。
半七捕物帳:31 張子の虎 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
向嶋のみならず、新宿、角筈つのはず池上いけがみ小向井こむかいなどにあった梅園も皆とざされ、その中には瓦斯ガスタンクになっていた処もあった。
葛飾土産 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
等しく大津の宮に愛着をお持ち遊した右の方が、愈池上いけがみの草の上で、お死になされると言ふことを聞いて、一目見てなごり惜しみがしたくてこらへられなくなりました。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
「この間ね、池上いけがみに競馬があったでしょう。あの時父様があすこへいらしってね。そうして……」
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
信仰しんかうなし己の菩提所ぼだいしよ牛込うしごめの宗伯寺なりしが終に一大檀那だいだんなとなり寄進の品も多く又雜司ざふし鬼子母神きしぼじん金杉かなすぎ毘沙門天びしやもんてん池上いけがみ祖師堂そしだうなどの寶前はうぜん龍越りうこしと云ふ大形の香爐かうろ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
お兄様はやっと思い出したらしく、「そうだ、遠足して池上いけがみ本門寺ほんもんじの傍の古い家で弁当をつかって休んだ時、友達が喜んで食べたっけ。由緒ゆいしょのあるらしい古い家だった。」
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
と、池上いけがみの方へ歩き出したので、私はふいとイヤな気がして立ち止まりました。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
十月二十四日 池上いけがみ本門寺ほんもんじ。三世中村歌右衛門建碑式。歌右衛門肖像画に賛。
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
して、池上いけがみへ往ってて、破戸漢ごろつき因縁いんねんをつけられたのだが、それを何かかんちがいしたものだろう、出入をさせなけりゃ、させてもらわなくてもいいや、何人だれがあんな処へ往ってやるものか
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
池上いけがみ本門寺の下寺の庭、馬込界隈かいわい百姓家ひゃくしょうやの庭、大森は比較的ひかくてき暖かいので芭蕉を植えるのに、育ちも悪くはないから、こくめいにさがし歩いてあそこで一本、ここで二本というふうにけてもらったり
生涯の垣根 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
大きい笊に麻縄の網を張ったような鳥籠を天秤棒にかついで、矢口の村から余り遠くない池上いけがみ、大森、品川のあたりを廻っていたのである。
半七捕物帳:51 大森の鶏 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
土用の明けるその日を期して、池上いけがみ本門寺ほんもんじを始め諸処の古寺では宝物の虫干かたがた諸人の拝観を許す処が多い。種彦の家でも同じくその頃に毎年蔵書什器じゅうき虫払むしばらいをする。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
あしたが池上いけがみのお会式えしきという日の朝、多吉があわただしく駈け込んで来た。
半七捕物帳:26 女行者 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)