水屋みずや)” の例文
右手には机に近く茶器を並べた水屋みずやと水棚があって、壁から出ている水道の口の下に菜種なたね蓮華草れんげそうの束が白糸でわえて置いてある。
あやかしの鼓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
頭巾を取らないで八幡様のお宮の正面まともを避けるようにして、水屋みずやの方へ漫歩そぞろあるきをしているのに、お君はそれと違って、お宮の前へ出てうやうやしく拝礼しました。
黒田玄四郎は帳簿を片づけてから、筆とすずりを洗うために立ちあがった。廊下を隔てたところに水屋みずやがある。
狭い中庭のすぐ向うが台所の水屋みずやなので、そこにも茶わんを洗う音や煮もののにおいが間近だった。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
木工具の領域を見ますと、京都出来のもので心をくのは「水屋みずや」と呼ぶ置戸棚おきとだなで、好んで勝手許かってもとで用います。形に他にない特色があり、洋式の模倣品もほうひんよりどんなによいか知れません。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
茶器を持ち込む前に洗ってそろえておく控えの間(水屋みずや)と、客が茶室へはいれと呼ばれるまで待っている玄関(待合まちあい)と、待合と茶室を連絡している庭の小道(露地ろじ)とから成っている。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
本社ほんしゃは大工が誰で、蒔絵まきえ円斎えんさい、拝殿、玉垣たまがき唐門からもん護摩堂ごまどう神楽殿かぐらでん神輿舎みこしや、廻廊、輪蔵りんぞう水屋みずやうまや御共所おともじょ……等、それぞれ持ち場持ち場にしたがって、人と仕事がこまかにわかれている。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
その城とは、三里じゃく距離きょりをおいて、水屋みずやはらにかりの野陣をしいているのは、すなわち秀吉方ひでよしがた軍勢ぐんぜいで、紅紫白黄こうしびゃくおうの旗さしもの、まんまんとして春風しゅんぷうに吹きなびいていた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
藤吉郎は、むッつりと、あらぬほうへ眼をやって、うもすも答えずにいるあいだ、自分でてた一碗の茶を、鷹揚おうようにひとり飲みほして、それらの道具なども、水屋みずや退げた後にである。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)