気散きさん)” の例文
ひまさえあればその事のほかに余念もなく、ある時は運動がてら、水撒みずまきなども気散きさんじなるべしとて、自ら水をにない来りて、せつに運動を勧めしこともありき。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
いかにつまらない事務用の通信でも、交通遮断しゃだんの孤島か、障壁で高く囲まれた美しい牢獄ろうごくに閉じこもっていたような二人に取っては予想以上の気散きさんじだった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
それがうまく行ったら、僕は一台車を買込むつもりだ。そして、自分で運転して、気散きさんじな自動車放浪をやるつもりだ。自動車放浪という気持ちが、君は分るかね。
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「たわむれにも、無礼なことを言うやつじゃ。じゃが、まア、よいよい。旅は気散きさんじじゃでのう」
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
今宵も、この境内を抜けてみようとするのは気散きさんじのためのみではありませんでした。
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「いや、ほんの気散きさんじで、ふらと一人で上がったのだが、一人客はご迷惑かね」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
気散きさんじにもなりますことゆえ、御ほうこうのあいまには唱歌しょうかやしゃみせんのけいこをはげみ、わざをみがきまして、いよ/\御意にかないますように出精しゅっせいいたしましたことでござります。
盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「いや気散きさんじに世界を見て来るさ。しかし纒まったら留守居をしなさい。実は寛一をとも思って見たが、お前達は未だ/\早い。もう二三年やらないと、折角の視察が大して参考にならない」
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
縁辺の話を決定とりきめたいという親類の意見から、暫く役目のお預りを願って、その空屋あきや同然の古屋敷に落付く事になると、賑やかな霞が関のおつぼねや、気散きさんじな旅の空とは打って変った淋しさ不自由さが
斬られたさに (新字新仮名) / 夢野久作(著)
『——お天気がよいので、気散きさんじに、雑魚ざこでも釣ろうと思いましてね』
魚紋 (新字新仮名) / 吉川英治(著)